135 夜の気配
初めまして。俺は肝試しに一番最初に(強制的に)出発しました。西村陸さんのクラスメイト、橘 志月です!
どうやら俺は、西村さんに「何か知らないけど帰るのが早い人」と思われていたらしいです。(悲しい)
俺が帰るのが早い理由は、母親の介護をしなければならないからです。
学校に行っている間は大学生の姉がやってくれているのですが、早く帰らないと姉がサボりだしてしまい、結果的に仕事が増えるので、早く帰らないといけないのです。
何度姉の携帯をたたき割りたいと思ったことか!!
俺だってみんなと同じように青春を謳歌したい!
……そう思いつつも、昔からよくしてくれた母の介護をサボる事は出来ず、姉に逆らうこともできないのです。
臆病な自分が嫌いです。もっと冷徹でいられたら、と思う時もあります。
……それでも、誰かのために動ける自分が、少しだけ、誇らしいと思います。
そんな俺は今、林の中を同じくクラスメイトの大和さんと歩いています。
「おい、そんなにくっつくなよ。歩きづらい。シヅキが一番『幽霊なんているはずない!』て言って張り切っていたんだろうが。」
隣の大和さんにため息交じりにそう言われ、涙目になりながら返事をする。
「そ、そりゃそうですよ。ゆ、ゆっ幽霊なんて、非……科学的な物……ぃ、いるはず、ないですから。」
「足ガックガクだけど?」
そう突っ込まれても「む……」と返すだけでまともな返事もできない。
やっぱ、俺はダメな人間だなぁ……。
「はぁ……。」
「あのー……。」
「ぴぎゃい!!」
後ろから声をかけられて思わず跳ねる。
声をかけた人の「うわっ」という驚いた声が聞こえた。
「なんだよシヅキ。やっぱ怖いんじゃ……。」
「怖くなんてないです。今声をかけてきた人も幽霊なんかじゃありません! 人間です!」
大和さんにそう言い聞かせて声の主を見る。
相手は目をぱちくりし、ポカンと口を開けたまま、しばらく黙っていた。
そしてハッとしたように目を開いて、言葉を発した。
「そりゃあ、幽霊ではありませんけど……。」
苦笑いを浮かべ、頬をポリポリとかいている人物は、馬場さんの弟、馬場永来だった。
「馬場弟!? はぁ……驚かせんなよ。シヅキの声で鼓膜破れるかと思ったんだからよ。」
「すみません。やっぱり、お二人では不安かと思い、声をかけさせていただきました。」
「そ、そうだったんですね……。大声出して、すみませんでした……。」
「いえいえ。急に声をかけたこっちも悪いですし……。」
「五分五分ってやつだな。エイラもシヅキも、どっちも悪くてどっちも悪くない!」
その時、通ってきた道から声が聞こえてきた。
「なんの声!? 橘さん、大和さん、大丈夫!? ……って、永来君!?」
西村さんがこの場に顔を出す。少し遅れて鈴木さんも。
「馬場後輩がいたんですか? どうしてここに……?」
鈴木さんは少し疑ったように眉をひそめる。
確かに……。どうして、この道を通ってきたんだろうな。
それは、言われてから一瞬だけ思ったことで、すぐに消えてしまうくらい、小さな自分の警戒アラームだった。
ピザって十回言って。
ナ「いいよ。ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ!」
ここはぁ!??
ナ「どこ?」
作、白「ブッホォ!!」(吹き出し)
ナ「えー……ごほん! 志月って『なんか帰るの早い人』って印象しかなかったのに、ここで一気に物語の中核に入ってくるのアツすぎ……」
白「フフフッ……あー……笑った。お腹痛い。……最初の挨拶が『強制的に出発しました!』で始まるあたり、本人はあくまでネタ担当なのに、背景が泣けてくるのズルい……」
作「“姉の携帯をたたき割りたい”とか言ってるのに、“臆病な自分が嫌い”っていう本音が見えた瞬間、心つかまれた」
モブに見えてた彼が、たぶん今、誰よりも『生きてる』。
ナ「そしてそんな志月の心の弱さをあっさり暴く大和さん、相変わらず有能すぎる……」
白「“足ガックガク”とか言われて、変な笑い出ちゃった」
作「なのに直後に“怪異”という違和感が立ち上がるの、本当に構成力がうますぎて……」
おう!
ナ「永来の“心配だったので”っていう登場、100%善意に聞こえるけど、『どこから来たの?』って疑問が自然と浮かぶあたり上手いよね……」
白「そして唐突な『ピザって十回言って』オチ。あれなんなの!?(笑)」
作「けどあの軽さが、逆に『このまま終わるわけない感』を倍増させてるのよ……」