132 輪音という名の旋律
「私は高校に入ったらピザ屋でバイトするんだ~。」
意外と普通。本屋の方が似合いそうなのに……。
「……じゃあ、ここは『ピザ配チーム』で。」
「あねぇ、相変わらずの素晴らしいネーミングです! 先生、わざわざご確認、ありがとうございます。」
「ああ、いえ。私は先生としての仕事を全うしたまでで……。」
心なしか、先生が気圧されてる気がする。
永来君の明るさは、明るすぎるんだろうな……。
そういえば、馬場さんの名前は何なんだろう。
安藤さんは『馬場』呼び。
僕と佐藤は『馬場さん』呼びだ。
彼女の名前は知らないが、一応同じ……『ピザ配チーム』なんだから、知っておいた方がいいだろう。
「馬場さん馬場さん。」
隣に立つ彼女にこっそり話しかける。
馬場さんは僕より背が低くて、茶に近い黒髪はサラサラで、目もぱっちりとしている。
おまけにスタイルもよく、喋らなければ清楚な美人にしか見えない。
「なんですか?」
そのヒーリングボイスは長く耳に残り、これで腐ってさえいなければなぁ……というノイズが一瞬流れる。
だが、それはダメだろうと思い、首を横に振って思考と打ち消す。
「馬場さんの名前は何ですか?」
「ああ。そういえば言っていませんでしたね。私の名前は馬場 輪音。」
輪音……。『輪の音』ってなんだか優しい響きだ。
ほほ笑む馬場さんに、一瞬ドキッとする。
可愛い……!
馬場さんは学校でも一位二位を争う腐女子であるとともに、学校でも一位、二位を争う美女でもあった。
馬場さんからパッと離れて赤い顔がばれないように向こうを向く。
向いた方向にいたのは『男子チーム』のクール鈴木さんと本好き山本さん。
そしてその隣にいる橘さんに近づく、安藤さん。
「橘ー。腕相撲やろうぜー。」
「え!? は、はぁ? まあ……。」
と言って混乱気味に近くのテーブルに腕を置く橘さん。
安藤さんが腕相撲の体制になり、手を組んだ瞬間――。
「1――。」
「え!!?」
「2、3はい!」
「え、あっちょッ。」
――ダンッ!
「はい俺の勝ちー。」
「はぁ……???」
混乱する橘さんの横で
「ちょ、お前それズルいだろ!!」
と突っ込む大和さん。
ズルい勝ち方だ……。
混乱中の橘さんを置いてこちらに戻ってきた安藤さん。
こっちに気づいてニッと笑ってから小さく手を振ってほかの場所に歩いて行った。
「はぁ……。」
「相変わらず自由ねぇ~けーすけくん。」
そうだ……。安藤さんは自由すぎる。
相手が混乱中に『いちにーさんはい!』で勝つなんて……。
ナ「“馬場 輪音”って名前、めちゃくちゃ綺麗なんだけど……!」
白「『輪の音』って、和風で静かな旋律みたいな響き……意外すぎてびっくりした……」
作「しかもちゃんとほほ笑みながら名乗るの、可愛さの暴力じゃん……」
“喋らなければ清楚な美人”どころか、喋っても美人力高すぎ問題。
ナ「でも陸くんの“知っておいた方がいいだろう”って内心、さりげなく優しくて好き」
白「そして照れて距離取るとこ! かわいい!!」
作「“腐ってさえいなければなぁ……”のノイズ→即打ち消す流れ、なんかリアルだった……」
いやぁ、てれるなぁ……。
ナ「ていうか、安藤くんの『いちにーさんはい!』勝ち、あれ反則だって!」
白「ズルい勝ち方……だけど面白すぎて笑った」
作「それを苦々しく見てる陸くんも含めて、青春してるなって感じ」
テンションも視線もバラバラなこのチーム……まとまる日は来るのか!?