12 失われた目の光
この話は、陸の記憶にはありません。あるわけないよね。
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陸の鼓動が止まった。
いじめっ子は抵抗しなくなった陸を押さえつける力を弱める。
そしてもう一度、陸の口に虫を押し付ける。
『ほら、食えよ。』
陸の反応はない。
ただじっと、黙って、反撃の機会をうかがっているようにも見える。
少なくとも、佐藤には、そう見えた。
獲物を刈る猛獣の目に、見えてしまったから――。
陸は、前髪の影の中で、静かに、その赤い目を光らせていた。
佐藤は何か違和感を覚え、壁にもたれかかるのをやめる。
(? 陸の反応がない……? それに、なんだこの威圧感。気のせいか……?)
『食えよ!』
いじめっ子は虫を陸の口に乱暴に入れようとする。
『ッ……!』
(なんてことするんだバカ! 今そんなことしない方がいいと分からないのか!?)
『………………どけ、俺がやる……!』
佐藤は覚悟を決めて、いじめっ子たちに声をかけた。
いつも見てるだけの彼にしては珍しいと、皆驚いて目を見開く。
佐藤はほかのいじめっ子を押しのけて陸の前で片膝をついてかがんだ。
虫を手に取った瞬間、キーンと耳鳴りなりがした。
――キーーーーーン
『!? なんだ!? この音……』
佐藤はとっさに耳を塞いだ。
『は? 何言ってんだよ、なんも聞こえねえよ?』
顔色一つ変えずに笑っているクラスメイトを見て、佐藤は思わず耳をふさぐ手の力を緩めたが、次の瞬間には、完全に音は鳴りやんでいた。
――そして、その場にいた全員の眼から、光が消えた。
そのあと、床に倒れこんでいたいじめっ子たちは死んだようにフラフラと立ち上がり、ゆっくりと男子トイレから出た瞬間、その眼に光は戻った。
一人残された陸は、最後の一人が出ていくのを、バレない様に横目で見届けた。
そして、口から虫を取り出した。
素直に食べた方が場が丸く収まるのは火を見るより明らかだ。幸い、虫の中に毒があるものはなかった。口の中を確認されなかったのは、不幸中の幸いというか……。
まあ、彼らの行動は陸が完全に操ることをも可能だったから、いざとなったら操ればよかっただけだが……。
陸は学ランで口元を袖で軽く拭う。
黒い服では、汚れはあまり目立たない。
そして陸はこみ上げてくる笑いを、隠しきれなかった。
『フッ……フフフ、アハ、アハハハハハハハハッッ!! あー……』
陸は、怪しい笑みを浮かべた。それこそ、普段の陸が浮かべないような――悪魔の、笑みだった。
『みんな見たか? 何のつもりなんだろうなアイツ』
もちろん、そこにいるのは陸一人だ。
『命知らずにもほどがある――何だったっけ? あいつの名……河東藤……じゃない、今の名は佐藤だったな』
そう言った陸の眼は、いつもの陸からは想像できない、ひどく冷たく、冷酷なものだった。
今日は陸に来ていただきましたー。
陸「そういえば、作者の名前ってなに?」
作者「え゛っ!」
いきなりだねー。
陸「鬼樹も作者って呼んでるし…もしかして、名前ないの?」
いーじゃーん。おしえてあげなよー。作ちゃーん。
作者「絶対教えない。(*^-^*╬)」




