126 お泊り会と夜のジュース
「うーん……。」
「何考えてるんですか?」
「いや……。」
筮さんを心配して声をかけたのに、いや……と返されるとは思いもしなかった……。
「淳君はここに逃げてきたわけでしょ? だったらこのまま家に帰すわけにもいかないし……。」
「……あ。」
無意識に飛び出した声に、筮さんはまさか、忘れていたの? という視線を向けてくる。
筮さんは数秒考え、言葉を出した。
「よし。お泊り会をしましょう。」
「は?」
家でお風呂に入っていると、ドタドタドタ、と慌ただしい足音が聞こえ、お風呂のドアがバンッと開いた。
「兄さん!!? ……何?」
「陸! お泊り会に誘われた!!」
「はぁ!!?」
今、夜なんだけどな……。
数秒間水のピチャン……ピチャン……パシャ……という音が響く。
「行ってらっしゃい兄さん。」
「違うよ陸と俺に届いたんだよそのメールが!!!」
旅館にて、筮さんが果汁水の入ったコップを上に上げる。
「と、いう事で……。」
「「「「「カンパーイ!!」」」」」
周りの兄さん、千代さん、紗代さん、葵、光莉も合わせて叫ぶ。
「「か、かんぱぁ……い?」」
((どうしてこうなった?))
僕と佐藤は息をそろえて疑問に思いながらも、ワンテンポ遅れてコップをあげる。
「………………。」
(????? ……何が起きているのか、まったくわからない……。)
この状況を一番理解できていないのは優斗さんだ。
「こんばんは筮さん。筮さんは成人しているのにジュースなんですね。」
「こんばんは空くん。私は酔っぱらって子供達の前で恥をかきたくないので……。」
兄さん……。なんだその質問……。
「そういえば、筮さんは何歳なんですか? 私はいきなり『お泊り会しましょ♡』って送られてきて怖かったです。」
「あら紗代ちゃん。失礼な質問はするものじゃないわよ。それに、私はまだ二十代。」
語尾に『♡』……。
ゆかいな仲間たちと夜にジュースを飲む。
夜にジュースという背徳感が、また楽しさを引き立てた。
「陸。」
みんなの会話を苦笑いしながら聞いていたら、佐藤に話しかけられた。
佐藤はちょっと待ってて、と言って筮さんと話をして、すぐに戻ってきた。
「陸。外に行かない?」
ナ「『外に行かない?』って……おいおい、佐藤くん、フラグじゃんそれ……!」
白「しかも直前まで“ジュースで乾杯”してたとは思えない温度差!」
作「ていうか優斗さん、完全に情報洪水の中で溺れてたね(笑)」
あはは……。まあ、うん……さっきまで『なんでこうなった?』って顔だったからね……。いや、無表情には変わりないけども……。
ナ「でもさ、夜にジュースってなんであんなにワクワクするんだろうね?」
え?
白「わかる! あの“ちょっと背徳感ある”感じが、謎に楽しい……!」
いや……知ったかぶりはよくないよ二人とも。
ナ、白「なんでだよ!!」
作「“コップをあげるタイミング一拍ずれる”のも地味にリアルで好き。」
白「あとさ! 陸と佐藤の兄弟テンポ、安定して面白いよね。」
ナ「『いやいや俺と陸に届いたんだよそのメール!』で笑った。」
作「筮さんの“はぁと”メール、怖がられてるの地味に傷つくやつ……。」
あれでいて、ちゃんと大人力高いのがまた筮さんの奥深さ……。