112 沈黙の狭間
優斗にはそこまで詳しくはしゃべっていない。
これで少しは心を開いて……あ、多分無理だな。だって話の内容が重すぎる。
優斗は黙った。
そしてこんなことを考えていました。
つまり、クズな父親と命の恩人がいるって事か。
優斗は、雑にまとめた。
「………………。」
ほら、反応に困ってる。(話を雑にまとめている。)
終わったな。このまま会話もせずに終わるんだろう。
「……春日さんは……。春日さんは……でも……。」
横を歩く優斗が、以外にも口を開いた。
その声は相変わらず小さいが、話せるようになったというのは大きな進歩だろう。
「……弟さんにも、考えがあるはずですよね?」
話を変えた。
明らかに『春日さんは』で始まる話ではない。
「さぁ。死者の考えは分かりませんよ。未だにね。」
未だに義弟の考えは分からない。
優斗は下を向き、数秒の沈黙が流れる。
重い沈黙を破ったのは優斗だった。
「……俺にはわかりません。ずっと、守られる側だったので。」
「守られる側。」
「……はい。あんな話をされた後なので話しづらいですが……。」
なんだ。そんなことか。
あの頃の記憶は、数少ない幸せな思い出。前まではそう思っていた。でも、今が昔と違えば違うほど、悲しさは積もってゆく。
あの日の雪のように、容赦なく。
「……俺には、兄がいます。三人、いました。でも、今は――。」
「……今は?」
我ながら、演技力が高いなぁと思う。
優斗は黙ってうなずき、話を続ける。
「三人のうち二人は兄弟で……というか、全員兄弟なんですけど。……なんだろう。」
説明がしづらいんだろう。
だが、軽蔑されるかもしれないというリスクを冒して話をしてくれた『春日』の話を聞くだけなのは罪悪感があるんだろう。
「……三人とも、死んでて。それで、目の前が真っ暗になったっていうか……。」
このままは、まずい。
「あのッ」
「次はこっちの曲がってみよう。」
優斗の言葉を切り、左の角を指さす。
向かっているのは優斗の家ではなく、陸の家だ。
さすがにここの道を曲がれば、見覚えのある道に入るはずだ。
一度言葉を切ったため、話を戻しずらいのか無言のまま歩き続けていた。
「……あ。」
「見覚えがあるんですか?」
優斗は頷いた。
あとは、優斗が進む道についていくだけ。
「あの……?」
「いやぁ、ついでにタオルでも借りようと思いましてね。」
忘れていただろうが、こっちはずぶぬれなんだ。
「……あ、はい。そのくらいなら、貸してくれると思います。」
作り笑いを浮かべる。
いつだったか、心からの笑顔を忘れてしまったのは。
陸の家の前で、優斗が深く頭を下げた。
『ありがとうございました』と言いたいのか『すみませんでした』と言いたいのか。
優斗が陸の家のインターホンを鳴らそうとしたとき――。
(今だ。)
優斗の首を叩いて気絶させる。
罪悪感など、とうに消え去った。
な!?
ナ「何その反応。自分で描いてるくせに。」
ひどい……。(しくしく)
作「(嘘泣き)。」
私の見方はここにはいない……。
白「演技派だね。」
はーい今全世界の演技派たちを敵に回しましたー!!




