110 義弟の
「俺は、裕福な家に生まれたんだ。」
裕福な家、ではあった。でも同時に、権力を振りかざすクズの家でもあった。
そんな家の長男に生まれた。
初めは特に不思議に思わなかった。
一般的、とまではいかずとも『フツウ』に近いのだと思っていた。
でも違った。
普通なんかじゃなかった。
「弟がいました。もう死んでしまいましたが。」
そう。さっきまで一緒に過ごしていた義弟は、死人だ。
「弟とは仲が良かったんです。隠し事をしたことなかったし、嘘もついたことなかった。」
軽い嘘をついたことはあったが、その嘘は二日も持たずにバレて、喧嘩になる事もなかった。
でも最初に噓をついたのは、義弟だった。
「うちの親、ほんッとクズなんですよ。カスでゴミで、世界の価値を落とす汚物。」
さすがに言いすぎ……とは思わなかった。当然の報いだと。
ただその男は、まだ生きている。
「父親は、ずっと家にいました。でも、俺はそれを知らなかった。家は広くて、ばったり会うなんてことはなかったし……。」
酒に溺れ、豚のように肥え太る父を、ただ傍観していたのは、なぜだったのか。
「でも金はあった。家の働き手は、弟でした。」
義弟が、働いていたのだ。
ずっとずっと、つらい顔一つ見せず。無理に笑って。
「その方法は……ッ。」
言葉が詰まった。
出ない。言葉が、喉に引っかかる。
「……虐待、暴力で強要して、売春をさせていました。」
重いだろう。
出会って一日もたっていない相手から、こんな話をされると、反応に困る。
「……弟が死んで、次に白羽の矢が立ったのは、俺です。」
そうだ。いつ思い出してもつらい記憶。
きっと死ぬ瞬間まで覚えているだろう。
「逃げましたよ。必死に。でも、逃げきれなくて……。」
実際には逃げ切れた。でも、ここですべてを話すのはよくない。
「そのあとの事はよく覚えていなくて、気が付けば、知らない場所の家の裏、暗い路地で、寝転がっていました。」
その日はこっちでいうクリスマスだった。
しばらくして雪が降ってきて、家の中から幸せそうな声が聞こえてきて。
その時、知った。
必要な物は、お金じゃないと。
俺はずっと、父の愛を求めていたのだと。
弟が死ぬ前に、気づいてやるべきだったと。
『見て見てーお父さん! 雪が降ってるよ!』
『おおーすごいな。』
『雪積もるかなぁ?』
後ろから聞こえてきた声に気づき、静かに目を開く。
自分の前にある家の壁に移る、子供二人と父親の影。
(………………いいんだ。これで……。)
もっと早く気づいてやれなくて……ごめんな……。
思い浮かぶのは、作り笑いであったであろう弟の笑顔。
一瞬だけ流れた涙も、すぐに枯れて。
重い瞼をゆっくり閉じ、肌に積もる雪も冷たさも、気にならなくなってきたころ『彼』はやってきた。
『寒そうだね。どうしてこんなところにいるの……なんて、聞く必要もないね。予想外だけど、若者の命は守るべきだよね。』
はぁ……。
作「何?」
なんだろう。筆が進まない……。
ナ「ほう?」
前はいい時で一日2~3話書けていたのに……。
白「すごい!」
ナ「化け物かよ。」
今は一日一話分のみ!
作「でも毎日投降できてるの凄いね。」
今溜め書き二十話分以上ある。
ナ「化け物だ。」