106 欄干の向こう側
その日、クズ狩りを終えた××は、傘をさして気分転換に散歩をしていた。
(やっぱり雨だと濡れますね……。)
××は、誰もいない道路を一人で歩いていた。
………………。
……訂正。一人ではありませんでした。
「兄さま。そろそろ帰りましょうよ。ビショビショになってしまいましたほんと最悪。このまま二人もろともずぶぬれになるしかないのかぁ……。」
後ろを歩く義弟。君たち視点で言うと『酔っ払い』だ。
少し静かにしてはくれないでしょうか。
「大体、兄さまは誰に対しても固すぎます。もう少しフレンドリーに――」
「そのような概念、必要ありません。」
××は立ち止まる。
必要のない概念の話をするつもりはないという意思表示だ。
義弟は顔をしかめてめんどくさいなぁとつぶやく。
酒や女を利用する義弟と、天性の才能と頭脳を使い生きている××。
この二人は、ある意味最悪のコンビだった。
兄は愛人の子であり、義弟は本妻の子だった。
にも拘わらず、大事にされたのは兄。
兄は頭もよく身体能力も高い。義弟も同じようなものを持ってはいるが、自分の才を大人たちは見てくれなかった。
今だって、一方的に話しかけているに過ぎない。
いつからこんなに差が生まれたのか。
初めは仲が良かったはずだ。変わったのは義弟が隠し事をし始めたころからだ。
思い出してもしょうがない。
「……ん? あ? はぁ!? 兄さま兄さま。」
考え事をして歩いていたのに横を歩く義弟が思い切り体を揺らしてくる。
そんな義弟を、兄は冷たく突き放す。
「なんですか? 静かにしてください。」
「そんな事ゆうてる場合とちゃう!」
この義弟の言葉遣いが変わるくらいまずい状況なのですか? と思ったがすぐに思い出す。
前に蛇が出たときに同じ反応をしていた。
その時はハリセンでぶっ叩いたが、今回も同じだったら流れる川に突き落とそう。
「あれ! ヤバいんちゃう!!?」
義弟が指さす方向を見ると……。
「………………。……言うのが遅いです! いや、もっと早く言ってください!」
思わず怒鳴る。
義弟が指していたのは川にかかる橋。そこには欄干の上に立つ優斗がいた。
「……いやいや、さすがに落ちたりせえへんよな? 乗っとるだけ……――」
その瞬間、優斗がゆらりと体を前に倒し、川に落ちた。
数秒の沈黙。
「「あーーーーー!!!!!!!」」
取り乱す義兄弟たち。
これにはさすがの××も冷静さを失う。
(ここまで追い詰められていたとは……。なるだけ死線ギリギリで保っていたつもりだったのですが……。)
「どッど、どうする……どうします兄さま!!」
こんな時にまで横から集中力削いできやがって……!
もう一度流れる沈黙。
兄は覚悟を決めた。
端に向かって走り、欄干に手をかけて川に飛び込む。
「ックッソーーーーー!!!!!!」
叫ばずにはいられない。
いつもの冷静でどこか距離のある話し方とは違う。年相応の乱暴なセリフ。
ナ「いやー、ほっこりする兄弟エピソードだなぁ……。」
ほっこりするか?
白「私はハリセンの話が気になるよ……。(遠い目)」
そうだね。
作「5月の内容が濃くて××くんたちの存在忘れてた。」
酷いッ。
作「被害者面やめい。」
はーい。
ナ「さて、次はどうなるのやら。」
白「そしてこの前一回だけ出た『春日さん』とういう名前の由来とは!?」
作「次回、お楽しみに~。」
いつの間にこんなに息ピッタリ……いや、割と前からこうか。