表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/245

105 歪みの刃、恐怖の目覚め


「い゙ッ……!」


 優斗は、投げられたものを避けきることができず、苦痛に顔を歪める。


 優斗が苦痛の表情を浮かべることはほとんどない。

 それが、叔母を偽る他人にとって、珍しく、レアなことであった。


「……やった。やっと、やっと優斗が表情を変えた……! この瞬間を、どれほど待ち望んだことか……。」


 小母は異常な目を優斗に向け、喜んでいるのか何なのか、口角を不気味に吊り上げる。


 異常な目をしたサイコパスが何かしゃべっている。

 だが、優斗の耳には入らない。


(まずい……。この状況は、本当にまずい……。)


 優斗は視線だけで小母を見上げる。

 三日月形の口がとても恐ろしく感じる。


 この感情は、以前なら『気持ち悪い』だというのだと片づけていただろう。

 だが今は違う。この感情は『怖い』なのだ。


 そう認識した瞬間、不気味な顔で高笑いをする小母の顔が黒く塗りつぶされていく。

 ――化け物に見えた。



 顔が黒く塗りつぶされた、化け物。


 まずい、という気持ちしか感じられないのは、焦っているからなのか、それとも恐怖でほかの声が聞き取れないのか。


 どちらにせよ、状況が好転することはない。


(熱い。傷口が熱い。この熱さの名前は?)


 わからない。

 外は大雨。六月だから仕方ない。


 逃げなければ。

 逃げなければならない。

 生きるために。

 生き残るために。

 生きて、生きて――……生きて……?

 生きて? それで?

 どうするんだ?


 ――キィ――――――ン


 耳鳴りが……!


「ッ……あ゙ぁアーーーー!!!!」


 いつの間にか叫んでいた。

 その後、いつの間にか玄関に走っていて、いつの間にか玄関を飛び出して、いつの間にか、傘もささずに走っていた。


 靴も履いてない。裸足で。

 雨水がパシャパシャと音を立てる。地面を蹴って、前に進むと同時に。

 服が濡れる。髪が濡れる。濡れる濡れる。全部濡れる。

 服が体に張り付く。服が水を吸い重くなる。髪も同じように重くなる。そんなことは全部全部無視して、走った。


 走って、走って、走った。

 走る走る走る。どんどん進む。

 人はいない。この土砂降りの中で、外に出る人はいない。


 道路を突っ切る。

 車が止まり、クラクションをあげる。


 雨水が傷口に沁みる。

 この感情の名前は?


 そういうの全ッ部ひっくるめて、さてどうする?


 無視。

 無視をする。


「はぁ、はぁ、はぁ。」


 ごうごうと音を立て、すごい勢いで流れる、川。

 大きな川にかかる橋。俺はその欄干(らんかん)の上に乗って、川の眺めていた。


 天を仰ぐ。ああ神様。どうしてこうなってしまったのでしょう。

 雨が、顔にかかって、目から流れる涙のように、地面に落ちていく。

 この水は、雨なのか、涙なのか、どちらでもよかった。


 前に体重をかけ、初めはゆっくりと、そして急に早くなっていくスピードと風に体をゆだね、静かに目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イイネ等、よろしくお願いします。 え? なぜかって? しょうがないなぁ、そんなに言うなら、教えてあげないこともないですよ。 モチベにつながります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ