第4話 あり得ない
「あ、けどね! 何でか知らないけど【ギフト】のレベルが急に上がったんだっ!」
「……え?」
ひたすら謎ピンクをいじり倒しているイセ。
その横で黙々とアースドラゴンをはぎ取っていると、彼女が思い出したかのようにそんなことを言いだした。
「上がったって……どのくらい?」
「ん~? 9くらい?」
レベル9!?
かつての俺と同レベル!? ていうか最高レベル!
「そんなばかなっ!?」
「あー! ばかって言う方がばかなんだよっ! だめでしょ!」
笑いながらデコピンしてくるイセ。
もし彼女が本気なら……今の一撃で頭が吹き飛ぶ……!
「……」
記憶の引継ぎはないが、能力の引継ぎが起こった……?
いや、記憶も……無意識かもしれないが引き継がれているんじゃ……?
「それ、便利ね!」
「ん? ……あっ!」
しまった、無意識に【空間魔法】の『アイテムボックス』にはぎ取った素材を入れてしまっていた!
「あー……実は俺のユニークスキルで……」
こうなってしまったらしょうがない。
しばらくしたらある程度伝えることになるんだ、それが早まっただけ……。
「ふふ。ねえ、他にどんな【ギフト】があるの~? パーティを組むなら知っておく必要があると思うよ!」
「……えーっと……」
意地悪な顔をしている気がする……。
「……【空間魔法】と、【ステータス】と……ひ、【光属性】……」
すぐに使ってバレそうな物は言っておくことにする。
1人ひとつの【ギフト】だから、これでもおかしいんだけども。
「他には?」
「……【火属性】と……【水属性】! 以上です!」
「ぴぃぃぃ~……」
俺の気持ちを代弁するかのように、謎ピンクが力なくイセを叩く。
「まだあるでしょ!」
「……ないっ!」
「あるっ! 実は私、今は共通言語じゃなくて犬獣人特有の『わんわん語』で話してるのよねっ!」
「へ?」
そんな可愛らしい名前の言語聞いたことがないのだが!
「あなたが『わんわん語』を話せるような【ギフト】があるはずよ! 他にもさっき――」
「わかった、わかりましたよ……降参です……」
不信感を持たれないよう、折を見て伝えてきたことではある。
逆に今伝えないと不信感を持たれるだろう。
今までもそうだったが、カンが良すぎる……。
「じゃあ最初から……【火属性】と【水属性】と――」
あきらめて俺の【ギフト】を地面に書いていく。
……。
……。
……。
「たくさんあるのね」
「……まぁね。それと……」
最後に【身体強化】の文字を書く。
彼女を守れなかった世界、その亡骸から引き継いだ【ギフト】。
自分と同じユニークギフトを見たらどう思うだろうか……。
「……」
「……」
恐る恐る、彼女に視線を向ける。
「……あり――んぴゃ!」
「んびぃぃぃぃーっ!!!」
彼女の顔に謎ピンクが物凄い勢いで体当たり!
「わかったっ! わかったから……『あり得ないけど、信じるわあなたのこと!』」
「え? あ、うん……」
それならそれでいいんだけど……。
何だか釈然としない……。
◇
――その後マリーナの街に戻り、借りた宿の一室に寝転がる。
1日の最後、魔力を極限まで放出して……。
「……あー~……だるくなってきた」
魔力枯渇が招く体の疲労を感じながら、今日あった出来事を思い出す。
イセとの再会、おもらし、【ロード】の喪失、距離の近さ、ドラゴンのハントとそれによるギルドでのひと騒動……。
前までの世界なら……イセとの再会、薬草摘みでキャッキャウフフ……のみ。
……訳が分からないよ!
「こんばんは~……ちょっといいかな?」
扉を叩く音とともにイセの声が聞こえた。
中々動かない体に鞭を打ち、扉を開ける。
「どうしたの? こんな遅くに……」
「あ、ごめんね! 寝てた?」
「まだだけど……」
「じゃあさ、ちょっと来て欲しいんだけど!」
今日何度目かもわからない、いつもと違う状況。
しかしもう私の体は限界よ……。
「すまないけど、魔力切れを起こしてね……体が動かないんだ」
「……へぇ~……私物は置いてないよね?」
「……まぁ。あれだけ」
「……へぇ~……!」
寝ている謎ピンクを指さす。
私物……ドラゴンの素材を売却したお金は『アイテムボックス』に入っているし。
「じゃ、行こっか!」
「…………」
再びのお姫様抱っこ。
うん、知ってた。
◇
夜の街を……家々を踏み台に跳んでいくイセ。
「着いたよ!」
彼女に連れられて来たのは……この街1番の宿屋。
そういえば、かつて魔物の大氾濫を阻止した時に泊めさせて貰ったことがあるっけ。
「……えと……」
「まぁまぁ!」
そのまま……流れるように最上階の部屋まで連れて来られ、気が付けばベッドに寝かされていた。
「……実はね、犬獣人には……発情期があるんだぁ~……」
「……」
そんな話は初耳……ってもしかして!?
「ごめんね、でも……我慢できないの……ん」
「――んんっ!?」
口で口を塞がれ……。
ふわぁあああ~…………。
「ぷはぁっ……キ、キスって、凄いね……」
「――ぁ」
名残惜しくも、彼女の顔が離れる……じゃなかった!
「だ、だめだって!」
「どうして?」
「それは! それは……」
邪神討伐への辛く苦しい地獄のような旅。
その途中で彼女たちとこういう関係になってしまえば……きっと俺は……。
「溺れてしまう。きっと前に進めなく――んんっ!?」
「んんーっ! 好き! 好き好き! 大好きだよぉっ! んー……ちゅぱっ!」
人の話を……話を……。
「イセぇ……」
「大丈夫、私に任せて……って言っても、私も初めてだけどねっ」
頬を赤く染めてはにかむ彼女に……理性は吹き飛んでいた。
******
「――はっ!? ……ねちゃってたぁ……」
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