1.悪態をつく
「失敬。今、何と仰ったか?」
「ガブリエラ・オークスには追加の褒賞としてエンバス領地、並びに領主の任が下賜されます、と申しました」
聞き間違いでないことを悟った女騎士ガブリエラは心の中でこう悪態をついた。
(何を言ってるんだ、この眼鏡は)
と。
◆
先頃、ローデンス王国の中枢に激震が走った。
第一王女エメリアが修道院の視察に訪れた際、修道女の中に紛れ込んだ狼藉者に襲撃されるという事件が起きたからだ。
襲撃犯は鋭く尖らせたロザリオを持ち込んでおり、無闇矢鱈に振り回して王女の一団に飛び込んできた。幸いにして王女エメリアに怪我はなく、彼女を護衛していた騎士たちによって襲撃犯は捕縛され、事件は落着した。
しかし何事も無事で済んだとは言えず、身を挺して王女の前に立ち塞がった者の中に負傷者がいた。
それがガブリエラ・オークスだった。
ガブリエラは襲撃犯のぎょろぎょろとした怪しい視線にいち早く気付き、大袈裟にならないよう王女を背後に守るように立ち位置を変えていたのだが、ついには女が飛び込んできたため、王女を抱え込んで自身を盾にした。
尖ったロザリオはガブリエラの左腕の騎士服と共に、皮を裂いて血を滴らせた。しかし隙だらけの襲撃犯は仲間の騎士に即座に取り押さえられ、それ以上の被害は出さずに騒動は終幕した。
自らの盾となったガブリエラが傷を負ったことを知った心優しい王女エメリアは、その美しい瞳に涙を浮かべて謝罪と感謝を繰り返した。
王女が無事であったこと、護衛騎士にはもったいないくらいのお言葉をいただけたことに誉れを感じたガブリエラは、この先も王女を守り通す盾となることを胸中で誓った。
はずだったのに。