04話 忘却曲線
太陽から発せられる日光が日輪となり窓から光が反射し徐々に目が冴えてくる。
「夢…だったのか。」
いや違う。
何もかも全て違う。
ベッドも部屋も身に覚えのものではない。
辺りの見覚えのないものに昨日までの出来事も全て本物だったことを物語っていた。
「うーん?」
僕が部屋を回りながら反復横跳びをしながらレラレラと混乱しているとドアが開かれた。
「起きましたか!てっ…なにをされてるんです⁉」
そこには赤毛の髪を一つにまとめた、無垢な瞳をした幼女が特別驚いた顔をしていた。
「大丈夫、ルーティンだから。」
真っ赤な嘘である。
「そっ…そうですか〜。」
そして幼女から話を聞いた。
「いや驚いたんですよ!アルト流星を眺めていたら村の門に人影があったので行って見たらあなたが倒れていて村中大騒ぎだったんですよ!」
「あの星ってアルト流星と言うんだね。…倒れた⁉嘘だ⁉」
あのあとエーデと別れたあとに村に行って。
『僕は何をしたんだ。』
エーデと別れたあとの記憶がない。
気絶するほど疲れていたとかではない。
なんで気絶したんだ。
思考を巡らせても分からないものは分からない。
「あの~。」
「ん?」
「お腹減ってません?」
それと言葉と共鳴するように僕の腹から鈍い音が鳴り響いた。
そう昨日から何も食べていなかった反動だった。
「減ってます。」
「口も体も正直な方ですね。」
ありがたい、幼女ありがとう。
そして幼女に促されるまま居間に案内された。
居間は中世ヨーロッパを体現したかのような内装で趣があった。
窓ガラス一つ見ても四角形の中に丸い縁が形造られており、ここが異世界であると実感させられる。
「大したものはではありませんか。」
食事は木製食器の上に並ぶ一つの黒パンと少量のシチューに水だった。
「食事をいただけるだけでもありがたいよ。」
「はいッ!早速食べちゃいましょう。」
この世界にはこの世界の食事がある。
とても裕福というわけでもないだろうに僕に分け与えてくれるのだ感謝してもしきれない。
「そういえば君の親は?」
幼女の親は見渡す限りいない。
「掃除です。」
「掃除?」
「今日ショゴスのバラバラ死体が湖で発見されたようで、放置したら疫病が蔓延する呪いが発せられるから村の精鋭でお掃除ですよ。」
「もしかして臭えスライム状の…。」
「はい!そうですよ。」
「それに昨日襲われたんだ。」
「えぇ⁉よく生きて帰ってこられましたね!?あなたが倒したのですか?」
何やら勘違いしているようである。
「いいや、白髪に身を包んだ綺麗な女性。エーデって娘だよ。その娘が目にも止まらぬ速さで…。」
「はあ!?えっ…。嘘…。」
幼女は動揺しながら言う。
「もしかして魔女…ですか?」
「そう言ってたね、有名人なのかな。」
「はい。災厄を連ねる魔女の一人です。」
災厄って、彼女はそんな物騒な二つ名を携える人物には思えなかったのだが。
僕にとってエーデは命の恩人なわけだし、そう言われるのは少々気に障る。
「いやいや、それこそ嘘じゃないか。だって彼女は僕を助けてくれたんだよ。災厄って…。言いすぎやしないかい?」
僕はまだ気づかない。
違和感に。
遥か彼方の神話を、忌むべき魔術を、僕はまだ知らない。