20話 最近の若者 後編
老婆の手の甲から鎖が具現化され、歪な金属音を上げて僕の首へと繋がる。
慢心的な心情の中で行ったのは間違いだったのか、やっぱり死んだかと僕自身思わずにはいられなかった。
「……嘘はついていないようだな」
はい、全くもってそのとおりでございます。
あなたに逆らおうとか反撃しようとか出会った時点でございませんでしたけど、今のこの現状で逆らおうとかまるでなくなり、なんなら服従の姿勢とかとっても良いのではと熟考し始めたところでありますゆえ、この押し問答が終わり次第 私の黄金長方形をかたどった土下座でも披露しようかなと。
「次におまえはオツシリカ教について何か知っているか?」
「知りません……」
「……そうか、驚かせてすまなかったな」
僕がなんの関わりのない、無実潔白であると信じていただけたらしい。
無論、最初から白であったが、それが逆に白々しい要因でもあったのかもしれない(?)
ところで首のこれ―――外してほしい。
「ところで、首の鎖?を外していただきたいのですが……」
「すまない、今外すよ」
老婆がそう言うと鎖が徐々に老婆の手の甲に引っ込んでいく。
首の窮屈な拘束は解かれた。
「君、名前はなんという?」
物腰の柔らかそうな雰囲気になり、もしかしたら文句の一つでも少しは言ってやろうかとも思ったがそんな毒気は早々に抜かれてしまった。
「白々白。白白が家名です」
「ハクか、いい名前だ。それに家名が前に来るのか、珍しいな」
そんなこと村の人達に自己紹介した時に言われすぎてる。もうお腹いっぱいっていうのが正直なところだ。
「ハクおまえには負い目もある。聞きたいことがあれば答えられるだけ答えるよ」
「聞きたいこと……」
特に聞きたいことなどないというのが正直な話だ。
だが何か一つや二つでも聞いておかないと失礼にあたりそうな面識を持っているので当たり障りのない、心の傷を削ることのないところを聞いて、家に帰りたいと思う。
日は落ちきった時間帯だ。
「なんで僕を……やっぱりやめときます」
「なんだい、やめちゃうのか」
踏み込んだことは聞けない。この人が許してもそれは僕的に考えて彼女だけのものだと思うからだ。
「えっと……では魔術はどこで習ったのですか?」
「そんなことでいいのか? 若いときに帝都の師匠に習った。 そんな一言で完結するようなことだ、面白くも何ともない。 一応は魔鏡協会所属の“魔術師”ということになる」
「魔鏡協会って、なんですかそれ?」
「そうか、知らないのか。 魔鏡協会とは簡単に言ってしまえば魔法や魔術を使う馬鹿どもの巣窟だ。 己の利益のためにしか動かない非道な奴らさ」
「あなたもその一員なんですか?」
「そうだ。 まあ……ライセンスとか身分証明とか今どんなふうになっているかわからないがな。 除名とか全然されているかもしれない」
「いや、曖昧だな」
「そうだよ、ここ十数年は行っていない」
話ここらへんに、老婆は「引き止めてすまなかった、今日はもうおかえり」と促した。
僕はもちろん帰りたかった。この人危ないもん。
でもやっぱり思うところもあった。僕には帰る家があって、家族ではないけど出迎えて『おかえり』って言ってくれる人がいて、それで充分で。
でも婆さんには家に帰っても誰もいなくて、ひとりでご飯を食べて、ひとりで寝て、ひとりで―――過ごしている。
そうだ、僕。
この人の名前知らない。
「あの」
「うん?」
「名前……教えてください」
「口説いてんのかい」
「それは断じて違います」
「否定すんな」
それはツッコミの応酬。
「『ゼルゼ』。 という」
その名前を聞いて僕はなぜか安心するような気がして、一言言って走っていった。
「また来るよ! ゼルゼ婆さん!」
「はぁ?」
見えなくなった僕を見送る婆さんから聞いた言葉はこれが最後だった。別に哀れに思ったわけではない、僕がそうしたいと思ってそう行動したのだ。
僕は家へと帰りひとこと『ただいま』と言った。
※※※ ※※ ※
まったく最近の若者は年寄りをからかう。
でも、からかわれてみるのもいいのかもしれない。
村の明かりがわたしの家をよく照らしている。




