18話 最近の若者 前編
最近、知ったことがある。
僕やフェアが耕している村はずれの畑のさらに外れに外れた片側の、言うなれば森林側の方に一つポツンと小さな家が寂しげに建っていた。
僕は不意に気になったので、大親友であるフェアに聞いてみることにした。
「ああー。あの家ね?あの家は頑固な婆さんが住んでいるよ。少し前までは村の人ともすごく仲が良くって、それは、それはもういい人だった。」
『だった』という過去形を用いて、そのお婆さんを巧妙に表していたことに疑念を持ったので、僕はまたしても聞いてみることにした。
「今はどうなんだ?」
フェアは困った表情をして言った。
「ああ…。今は、まあ、触れないほうが良いと思う。」
「ほう?それまた何故なんだ。」
「あの人『孤独』なんだよ。あの婆さんは。」
「孤独…。」
会ったことのない婆さんのことを示す言葉に『孤独』はあまりにも失礼ではないか、と心の隅で思ってしまうのだが。
「ああ、孤独だ。あの婆さん、夫に先立たれたらしくてな、まあそん時は娘さん、アイネさんって人がいて励ましてくれたおかげで立ち直ることができるんだ。そしてな、数年後なんとアイネさんが村外の若者と結婚!幸せ喝采でまさしく幸福の絶唱だったよ。結婚式、俺もかなり小さい頃行ったんだよ。5か4の頃かな。今でも鮮明に覚えているよあの婆さんの幸せそうな顔は。」
「いや、ここまで聞いているとハッピーエンドのように聞こえるが、聞いた限り直接的な理由としては、夫の死ではないだろ?」
「ああ。」
一呼吸置いてフェアは話し出す。
「それからしばらくしてアイネさんは死んだんだ。」
「はっ…?」
「いや違うな、語弊がある。死んだんじゃない『殺された』んだよ。結婚した村外の人間にな。」
それが、仮にも事実なんだとすれば悲惨なんて言葉では表せない、生きる気力なんて湧かないだろう。
夫を失っても、それでも、生きる気力を見出してくれた家族が、あまつさえ、その娘さんが選んだ結婚相手に殺されたんだ。
僕だったら自殺する。
首元に刃を当てている。
ここでふとした疑問が頭を過った。
「なぜ、アイネさんは殺されたんだ?」
その問いに対してフェアは
「知らない。良い人だったんだがな。」
太陽のような金髪を風が揺らし、過去を想う彼の表情は物寂しげに微笑んだ。
畑仕事も暗くなる少し前に切り上げてフェアと別れた。
もう見慣れてしまった道を歩く。
「おい、止まれ。」
背後からふと声を掛けられる。
紛れもない僕に向かって。
後ろを振り向くとそこには1人の老婆が佇んでいた。
「何でしょうか?」
「お前、村の人間じゃないな。」
「はい。不甲斐ないながらもこの村で居候をさせてもらっている穀潰しですが。」
自身を穀潰しと自称しつつ、この老婆は何者かは分からない。
話している僕と老婆の間には言い表せぬ程の緊張感が会った。
そして口を開いて、こう言った。
「一回家に来なさい。」
まさかの提案に
「うぇ?」
と間抜けな声が出てしまった。
これぞトンデモ展開。




