15話 観測者
沈む太陽を背にして、僕は村へと戻る最中のことだった。
僕の気持ちは高揚していた。
影魔法の影蜃気楼を習得したからだ。
やはり魔法は人並みできるらしい。
まあ、でもこの程度で奢るほどでも、誇るぼどでも、僕は愚か者ではないさ。
「誇ってはいいと思うけどね。」
村が見えて来たところで不意に背後から声が這い寄ってきた。
全てを見透かすような。
男女中性的な。
感情の混濁的な。
そんな声。
「誰ですか?」
僕は夕日がさんざめく背後を振り返った。
僕は見た。
そして思った。
存在してはいけないと。
そこには“白髪”を下げた、瞳には充血したかのような、されども美麗ありき神聖の如し無性の人に似た何かが立ち尽くしていた。
そして気が滅入るほどの魅入ら人だったのだ。
この中性的な容姿は、人に聞けば男、また別の人に聞けば女と答えるほどに酷く美しく、曖昧な風情を放つばかりであった。
「いやぁ、そんなに色彩豊かな言葉の羅列で“思われる”とこのボクでも照れてしまうよ。」
思われる。
そう言った。
初めて会ったはずなのに既視感がある。
「改めて、どうかな白々白、この世界は。」
「はは。」
苦笑。
「名前…、お前は何なんだ。僕をこの世界に送ったのはお前なのか。」
こいつは恐らく、この形容し難いものは僕をこの世界に送った元凶なんだ。
闇の姿を借りて僕を飲み込んだのだろう。
一体何のために。
日は完全に沈みきる。
「そんなに警戒しないでおくれよ。悲しいなぁ、ハグでもするかい?」
奴は僕へと歩み寄ってくる。
悪寒。
僕は奴を突き飛ばした。
別に何かされたわけでもない、いや、異世界召喚されてはいるのだが。
苦い感覚と言うべきか、そんな不可思議、いや感情が混ざり合ったこの感覚は『混沌』とでも言うべきか。
奴はいともたやすく尻餅をつく。
気持ちが悪い。
コイツの一言一言に言い表せないほどの何があった。
「痛いなぁー、美くないよ?憂いなき行動に価値なんてないんだからさぁ。」
「ごめん。」
「あれ、謝るんだ。あいや、別に馬鹿にしたわけではないんだよ?ただね、そう、君が元いた世界の、つまりボクの知る白々白とはあまりに掛け離れていたからねぇ。」
確かにそうだ。
この2日半で僕はあの時の僕とは全くかけ離れた存在になっていた。
この世界に来たから『僕は変わった』。
ビバ異世界。
ああ、友達も家族もいなかったあの世界に未練はない。
「そうかぁ、まあそれも選択だよね。」
「ああ、それとお前、僕の思考を読むのは止めろ。気色悪いったらありゃしない、このチビ!」
「ヒドイじゃないかぁ~、ボクはこんなにも君を想っているのに。」
「お前に想われても嬉しくない。絶世の美女か花魁でも連れてみるんだな。」
「お前じゃないよ、ボクは…。」
一コンマ空けて奴は言った。
まるで次の年号を言い放つかのように。
「『観測者』、とでも呼んでくれ。」
畏敬の念を放ち奴は、いや、観測者は言った。
観測者はなんかね…。




