01話 始発点
死んだおばあちゃんが口癖のように言っていた。
「あなたは優しい子…人の痛みを知れる子…だから困っている人がいたら助けてあげなさい。それがあなたの幸せとなるから。」
最後の言葉も結局これだった。
帰りの通学路を歩いていた。
S県H市かりがね、断頭台のように上から見るこの街並みは調和のとれた輝かしい日常が滞在しているかのように、優しく太陽の残り火が街を照らしていた。
夕暮れ後の暗闇が浅い時間に勉強のことを考えながら歩いていた。
だから少しも思わなかった。
「…」
それは突然起こるものだということに。
災害とかそういう類いのものは突拍子もなく起こり得るものなのだし、それからくる惨事や恐慌は誰にも止められないし誰のせいでもない。
しかもこの現象という存在がそれに該当するかも分からない。
だがそこには闇が存在したのだ。
目の錯覚だとか日頃の疲れからくる幻覚などではない。
闇がある。
唯そうとしか表現方法が見つからない。
別に僕は小説家ではないのであえてこの闇を描写しないが、なんとも言えぬ容姿をしていること確かだった。
いや闇は人間ではない、それに対して“容姿”という言葉の使い方は無粋か。
だがそんな僕の考えに気にする素振りなどまったくなくそれがまるで生き物のように蠢き、闇の中から不調和な邪悪を僕めがけて向ける。
「逃げないとっ…。」
僕は逃げようと後ろを振り向こうとする。
人間として当然の反応で、未知なる恐怖から逃げたいなんていう思いからの行動だった。
だが軽率な行動でもあった。
後ろを振り向いた瞬間、眼前には闇があった。
「なっ。」
声を出すのもままならなく、僕は闇に呑み込まれた。
時間の感覚が分からなくなった。
視覚が全く意味を成さないこの状況に1秒1秒不快感を感じながら僕は考えた。
ここはきっと闇の中なのだろうが辺りを見渡すために目を開けようとしても開かないし、瞼もこれっぽっちも動きやしない。
それは両腕両足も同様で、全くと言っていいほど動かないのだ。
不意にこの先の展開を考えた。
ああ死ぬ。
死ねる。
死ねてしまう。
過程や方法をすっと飛ばしてそのように考えてしまった。
僕は想像もできない軟弱者なのでそのようなことしか思いつかない。
そう、全ては闇の中。
まあでもいいか、別にあの世界にもう未練などないのだから。
考えても無駄なので思考を停止させ、意識を手放した。
さてどのくらい時間がたったのかわからない。
僕はふと起き上がった。
いや、なぜ起き上がれる。
ついさっきまで小指一つ動かなかったはずの体が起動することができる、何よりもそんな当たり前の事に一つの感動さえ覚えた。
目を開けた。
「え…。」
僕は眼の前の景色に涙を流した。
ああ…なんということだろう。
夜空を遍く彗星たちが混合と合わさり広大無辺な色彩として現れ、僕の精神を完膚なきまでに破壊した。
「おばあちゃん…綺麗だよ。」
僕はここが僕のいた世界じゃないなんてもはやどうでもいいことだった。
わかっている今はこんなことをしている場合じゃぁないなんてわかっている。
わかっているんだが今は、今だけは。
現代では見られることのないこの星々に感謝を。
木々は揺れ蠢き、彼方から獣の咆哮が聞こえ、虚空からは神の嗤いが聞こえたような思えた。
そうして白々白は異世界に転移した。
はじめましてでございます。
読んでくださりありがとうございます。
葬送のフリーレンのような世界観が大好きマンです。
是非とも次の話も読んでくれたら嬉しいです。