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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

華奢な手

作者: りょう。

「私って、どうやって死ぬんだろう」

 そんな私の呟きに、何故か返答が帰ってきた。

「"死"を体験したいですか?」


 どこからともなく、ふわっと生暖かく包み込むような声が聞こえた。

 声色に反して、自らの身体には悪寒が走り、息苦しくなる。

 近づいてくる気配に気づきながらも、気付かないふりをして息を潜めた。が、


「おや、風邪でも引きましたか」


 と間髪入れずに私の目の前へと姿を表した。

 私は反射的に両手で顔を守る体制に入った。そのまま、必死に目を合わせぬよう、目を伏せたものの、あちらから目を合わされては逃れようもない。

「冗談ですよ、おじょうさん」

 そういい、黒いフードをかぶった男は、不敵な笑みを浮かべた。こんな男を目前に無視できるわけもなく、思わず私は口を開く。

「何の用ですか」

「貴方による、心の紛糾が私の耳に届きましてね」

「確かに言いました。でも独り言です。誰かに伝えようと思って言ったわけじゃありません」

「あー……それは僕を拒絶するということでしょうか」

「……とにかく、どうやって家に入ったのか分かりませんが、お引き取り下さい」

 と口ではいいつつも、目の前には、ボロボロの布切れを身に纏っているのに加え、どす黒く、変形した爪のついた、青白い肌をした男が立っているのだ。そんなものが目に入っていては、恐怖を感じざるをえない。そんな容姿をしているくせに、大鎌を持っていないことにむしろ違和感を感じさせる。


「......あの、帰らないんですか」

 あの言葉を私が発してから、既に数分間は経っただろうか。男はなぜか、何も口を開かなくなってしまった。

 一体どうすればこの状況を打破できるというのだろうか。

 とかく、この不審者を家から追放するか、今すぐ警察を呼んで突き出してやりたいところなのだけど……。

「帰れないんですよ、我々の職務は少々特殊でして」

「仕事で来たんですか」

「ええ、死を体験したいという願望を叶えに」

「私さっきも断りましたよね。でも帰らなかったってことは、そのお仕事を終わらせないと帰れないんですね」

「はい勿論」

 薄々気づいてはいたが、何の目的でこんなことを……。

 私は全く理解に苦しみ、この状況を鑑みて、どうにかしようと頭を張り巡らせた。が、私の頭を支配したのは、たった一つの選択肢のみであった。私は即座に悩むことを放棄し、おもむろに

「わかりました」

 とだけ言い放った。我ながら頭がおかしくなったと思ったが、日々に疲弊し、心身ともに参っていた私は、正常な判断を下せなかったのだろう。

 その瞬間、元気なさげな様子を見せていた男が、無邪気な幼児のように飛び跳ねたかと思えば、私の周りをくるくると円を描くように、薄気味悪い笑い声を上げながら走りだした。

「ちょ、ちょっと何してるんですか」

「儀式ですよ、こうやってやるんです。さ、早く目を閉じて」

「はい……」

 未知とは恐怖である。そして私はただただ静かにそのときがやって来るのを待っていた。内では、好奇心が少しずつ芽生えてきていることに気づき、そんな自分の心に嫌気がさした。

「そろそろですよ」

 男の声が聞こえたかと思うと、私の意識は、暗闇の中からどんどん加速していった。それに応じ、周りがだんだんと白みがかってくる。そして、はるか遠くの、過去に経験したように思える記憶が、どこからともなく、物凄い勢いで流れ込んでくる。そうして、覚えず、私の身体は、これから確実に訪れるであろう自らの死の様相を目視できるその瞬間を待ち望んでいる。してしまっている。


「……え」

 私は驚きを隠せず、思わず声を漏らした。

 背中側にはふかふかのベッドの感触。いつもの、私の家のベッドである。そして、久々に自分の家の白い天井をぼーっと見つめつつ、

「そういうことなんだ……」

 と言葉を漏らす。

 つまるところ、彼の云う死の体験は私の思い描く死の体験とは違った。

 傍観するのではなく、体験すること、という最初の発言を既に忘れていた自らを憎む。

「あの人どうやってこんなこと……って、これから私死ぬんだった。というか、この状態からどうやって死ぬんだろ、私」

 こうなった理由を呑気に思い出し、"その"体験を心待ちにする。とりあえず横になっている自分の身体を起こそうとしたそのとき、

「死ね」

 乾いているもののとげとげしく、捨て台詞のようにぽっと放たれたらしい言葉なのにも関わらず、言葉の強さゆえ耳を劈くこの妙な感覚。ああ、こう思われていたんだ。そう投げかけられたことに、私はなぜか微塵も不思議だとは思わなかった。そしてその言葉は私にとっては少し甘いとも思った。むしろ優しく寄り添ってくれているとも思った。だが声色だけは気に入らなかった。


 そう思ったやさきに私はくらっと目眩がし、気を失いかけた。が、間髪入れずに身体のそこらじゅうがじわじわと熱くなった。熱い。この熱さに身体は耐えられそうにない。また、頬には一筋の温かさを感じる。涙とは温かいものであったか。いや、身体が冷たくなりつつあるからだろうか。

 気づかず流した涙だけは温かく、ゆっくりと頬を流れ落ちる感覚だけに意識がいく。

 その伝った涙の雫は白いシーツへと流れ出し、染み込んだ。

 この涙は悲しい証拠だったのだろうか、それとも他になにか理由があったのか、それは分からなかった。


 そして突如として呼吸ができず、息が苦しくなっていく。

「や……め…………っ」

 私の肉体はさっきからずっと苦しんでいたようだ。そう、あの言葉をかけられたときから。あの声の持ち主は私の首を締め付けていた。この二本の手は、私がどう必死に足掻いても離れてくれない。引き離そうとすると、その手に力がこもり、かえって苦しくなる。

 息ができず、必死にもがくも、締め付ける手はその力を緩めない。やり切れず、首を絞めるその手から両手を離してみると、今度は力を緩め出す。そういえば彼は優柔不断な人間だった。

「っ…………はぁ……はぁ……」

 少しだけ息が出来たが、それでも依然苦しいままだ。

「なん……で……そんな…こと……する……の」

 力を振り絞り吐き出されたような、嗄れた私の大好きな、しかし憎いと感じる声は、なぜか私自身の喉から発せられた。私を苦しめる相手からその言葉に対する答えは帰ってこない。そんな状況で何を思ったか、私はふたたび私の首を絞めるその手首の方へと両手を伸ばしていく。

 小刻みに震えるも必死に首元を絞める両手へと。

 ついに手が届き、その手首に私の両手がさわっと触れた。

 ……随分と華奢だった。

感想評価ブクマよろしくお願いします。

高校生作家といっても商業化してるわけではないので@以降の文言はただの飾りですし、今回の作品はだいぶ不親切だと思いますが、今後感想をいただいたりして最終的には自分で客観的に作品をみられるようになりたいと考えています。どんなに些細なことでも、気になった点などがありましたら是非感想をください。

また、高校生であるということを明言するとなにか作品に対する先入観が刷り込まれてしまうやもしれないなどと思いつつ、高校生が書いているという事実をうまく利用したいという思いもあり、その記述を今後名前などに含もうか悩んでいます。それも皆さんに意見を仰ぎたいです。


最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。

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