ゆるゆる隠居生活。
初投稿です。よろしくお願いします。
憂鬱な時間にジゼル・ノルトラインは溜息を吐いた。
国境沿いの辺鄙な領地から、移動に一週間以上かかる王都までの移動に。召喚の詳しい理由は王宮に着いてからでないと分からない事に。
そして、何故かまだ幼年であるジゼルと、弟のベンジャミンを連れての登城である事に。
弟は疲れて眠ってしまっている。お世辞にも居住性が良いとは言えない馬車の中、ジゼルの体力も大分消耗していた。
長閑な牧歌的景色を横目に、ノルトライン家の馬車は粛々と進む。
「……お父様。何故私たちまで王城へ行かないといけないのでしょう? 大人の話し合いに、子供は必要ないのではありませんか?」
ベンジャミンを起こさない様に、そっと言葉を吐く。対面に座って外を見ていた父親が、ジゼルの発言に外に向けていた視線を、子供たちに合わせる。長い移動にしなりと草臥れている様子を見て、それでもにこりと笑顔を向けた。
「すまないね、ジリー。でも、お前たちも領地以外の場所も見たいだろうと思ってね。」
王都には何でもあるんだよ、と聞いてもいない話を始める。
あれが良い、これが素晴らしい、お前たちもきっと気に入る、父親から発せられる単語の全てに、ジゼルは御座なりに返事をし、やはり溜息を吐いた。王都を褒めちぎる言葉の裏には、自領を蔑み嘲る意図が丸見えだからである。
ノルトライン辺境伯家への入婿が、今になっても業腹らしい。何かにつけて文句を言い、現在は当主としての仕事は全て母が取り仕切っている。手伝ってくれていた祖父母は昨年他界してしまい、足りない手は、ジゼルとベンジャミンが手伝っている様な有様で。居ても居なくても問題ない、無駄飯喰らいの名前だけ当主等、屋敷では専ら相手にされない父の鬱憤が自暴自棄を起こす、という悪循環に陥っている事を、本人が無自覚なのだからどうしようも無い。
せめて仕事をきちんと熟せば、そうでなくても母の負担を少しでも減らす努力を見せれば、屋敷での対応が少しは変わるだろうに、と齢七歳の小さな胸の内で思う。