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喫茶で小話集  作者: 愛組
7/31

小話2 この「ひととき」3

「……文句、というか」


 着流しの男は、彼らをひと通り見渡し鼻で笑う。


「空気の読めん若造は、どこにでもいるなあと思っただけだ」

「な、なんだと?」

「あー、別に君たちとはいってない」

「こ、この」

「暴力を振るうのか? それはもう、ただのガキだろ。お前さんらはどちらかな?」

「う、ぐぅ」


 着流しの男の言葉に言いくるめられて、持ち上げかけた拳を震わす若い男達。巧みな言葉さばきに、周囲の客達は無言ながら感心していた。


 そんな気を張り詰めた場に、甘い香りが漂う。



「お待たせしました。本日のオススメケーキセットです」



 コトンとカウンター席のテーブルに、コーヒーとケーキの皿が置かれた。視界にそれらが入った瞬間、着流しの男は彼らの存在を排し、早速とばかりにフォークを手に取る。


「今日は、ショートケーキか! 果たしてお味は……」


「お、おい。じいさん」


「あーん……なんだ、まだそこにいたのか?」



 つい先程までの口論も、既に興味を失っていたらしい。ひと口サイズにしたケーキを口に入れる途中で、渋面をつくった。


「この至福のひとときを、邪魔されるのは不愉快だ! マスター、彼らにもケーキセットを」



 若い男達の驚きも意に返さず、注文する着流しの男。「おごってやるから、食え」と言われ、怒りもなんだか引っ込んで素直に席に着く。しばらくして彼らの前にも、ケーキセットが並ぶ。


 困惑顔で互いの視線を交わすも、食欲に負けてケーキをひと口。途端。



「「「うまい!!」」」



 目を見開いて驚き、その後無言のまま食べ進めてゆく。そんな彼らを見て、着流しの男はニンマリと笑う。


「うまかろう? この店の味付けは、少々独特でな。サッパリと甘く、ほんのり塩気がある。いつもながら、なんとも不思議な味わい」


 コーヒーを飲んで、再びフォークを動かす着流しの男。甘ったるいとは違うケーキに、舌鼓を打つ。



 気づけば、店内に広がっていた冷たい空気が消えていた。



「今日も、最高の味だ。お前さんらは、どうかな?」


 言葉にするのも惜しいのか、しきりに頭をブンブン縦に振っている。新しい同士を得た事に、男は声をあげて笑った。


「おう、すまん。少々うるさかったか」




 こうして、若い男たちはこの店の味に魅了されたと言う。

次回は、水曜の19時更新です。

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