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小話2 この「ひととき」2
着流しの男が店内に足を踏み入れると、すでに会話を楽しんでいた客達の視線が向けられる。加えて彼の格好を見て、好奇心を刺激された一部の奥様方がヒソヒソと想像を膨らます。
そんな客達の反応を聞き流し、カウンター席へ真っ直ぐと向かう。そして、コーヒーミルで豆を挽いていたマスターに声をかける。
「やあ、マスター! 今日も来ちまったよ」
片手を上げた男の言葉に気づき、マスターはニコリと微笑む。特に話はせず、そのまま仕事を続けるマスター。無言の理解で男は、席に座る。
「いつもの、頼む」
簡素な注文を終え、腕を組み直す。店内に充満した、豆の香りが期待をそそる。
それからしばらくして、店に新たな客がやってきた。男がふっとそちらを見れば、三人組の若い男たちだ。何やら盛り上がっているようで、いささか騒がしい。声にも次第に熱が入り、どんどん大きくなっていた。しかめ面の客も増えていく。
そんな彼らは、自分達に向けられた男の視線に気づいた。
「なんだ、じいさん。文句あるのか?」
次回は、月曜の19時に更新します。