小話1 喫茶店のマスター4
予想外のマスターの介入に、兄貴の男は強引に手を振り解く。不満一杯の舌打ちをして、マスターを睨みつける。
「元はと言えば、そこのガキ共が挑発して来たからだろうがっ」
顎でクイッとマスターの後ろにいる、女子高生達を示す。
「俺は、噂の喫茶店でコーヒーを飲みに来ただけだ。そこを勝手に勘違いして貰っては、困る」
「分かっています、お客様の気持ちを。ですから」
マスターは女子高生達と向き合うと、にこりと微笑む。
「あなた達は、謝らないといけませんね」
「はあ? おばさん、何を言って」
マスターの言葉に反発して、女子高生達が言い返す。しかし、マスターから無言の、圧力のある笑顔を向けられ言葉詰まってしまう。それでも気丈に振る舞おうとした時、イスから降りた一人の女子高生が深く頭を下げた。
「勝手な事言って、ごめんなさい」
「「……え?」」
兄貴の男と背の低い男の意表を突いて、謝罪を口にした少女。ウェーブのかかった長い金髪が、頭を下げた事でサラリと揺れる。すぐ近くにいた他二人の友人は呆然としていた。
「何してんの? ウチらが悪かったじゃん」
「え、でも」
頭を下げたまま、友人達をみる少女。その目が段々と鋭くなってゆく。
「……言い訳はいいから、早く」
「「は、はい」」
少女に気圧され、彼女らも頭を下げる。女子高生三人に頭を下げさせた所で、怒りが収まり行き場のないため息をつく兄貴の男。
「ま、まあ俺も大人気なかった。悪い」
「さっすが兄貴、大人な対応」
背の低い男に煽てられ、居心地悪く視線彷徨わす。
「これで解決、ですね。良かったです」
事態が何とか収まった事で、マスターはさっさと調理場へと戻っていく。一人だけ浮いた雰囲気を放つマスターに、誰もが思う。
『謎過ぎるぞ、マスター!!』と。
次回は、水曜の19時更新です。