小話1 喫茶店のマスター2
「いらっしゃいませ」
扉を開けてすぐ、彼らの耳に店員の声が届く。顔を向ければ、腰にまで届くほどの、黒く長い髪をした女性が視界に入る。二十代後半といった所か。しかし、見た目に反して勝気で鋭い眼差しをする女性だ。恐らく、彼女がこの店のマスターなのだろう。エプロン姿であちこち動き回っている。
二人は店内をキョロキョロと見渡し、カウンター席で目を止めた。
「よし、あの席に座るぞ」
「わかりやした!」
「声がデカいっ」
兄貴の男は、背の低い男の頭をスパンっと手で叩く。見るからに怪しい奴らに、周囲の客達は警戒心を抱く。
店内の空気の変化も気づかず、二人組は空きの多かったカウンター席へ座る。二、三席離れた席では学校をサボって来たのか、制服姿の女子高生がヒソヒソ話しをしながら彼らを伺っていた。
「おい、何見てんだ?」
そんな彼女達の視線が気に食わなかったのか、兄貴の男が睨みつける。
「うわー、怖っ!?」
「あの人ら、絶対危ない人だよっ」
「ちょっと二人とも、失礼じゃねえ?」
少しずつ大きくなる女子高生の二人に、残りの一人がいさめた。しかしヒートアップする一方で、困り果て眉を寄せる。
その時だ。
バンっと勢いよくテーブルを叩き、兄貴の男が立ち上がったのは。
「いい加減にしろ! テメーらっ!」
次回は、金曜の19時更新です。