もういいよ
生まれ故郷へ向かう車窓の中__
僕には昔、お姉ちゃんがいた。
背が高く小さい僕のことを軽々と抱えてしまう。
それでも僕が嫌がるとそっと下ろしてくれる。
友達がいない僕が一人で遊んでいるとどこへでもやってきた。
森へと、川へと、どこへでも。
お声が綺麗なお姉ちゃん。
僕がアニメで見たどんなキャラクターの声だって完璧に出せる。
それでも僕を見つけた時は決まって「ぽっ!」と声をあげた。
ある日僕がお爺ちゃんからお姉ちゃんとかくれんぼするように言われた。
お姉ちゃんに、決して見つかってはいけないよと。
わけがわからなかったけど、僕は頷く。
真っ暗な部屋に連れていかれ、お爺ちゃんが開けるまで決して扉から出てはいけないよ。
そう言われた。
それからしばらくし、お姉ちゃんの声が聞こえてくる。
「もういーかいー?」
「もういーかいー?」
「もういーかいー?」
決して見つかってはいけないといわれたので僕は答えずじっと息をころしていると、そのまま眠ってしまった。
気がついた時、僕は車の中にいた。
後部座席に座る僕をよそに前の席ではお爺ちゃんとお父さんが何やら騒いでいる。
そのまま僕たちは引っ越すこととなった。
__あれから10年。
僕はお姉ちゃんに「もういいよ」と言うために戻ってきた。
お姉ちゃんに会いたくて。
このトンネルをくぐれば、お姉ちゃんのいる僕の生まれ故郷__
「ぽ!」