オープニングムービー
怪物の咆哮が轟いた。
大人二人分の高さはある巨体。およその姿は人間に近いが、右脇から二本、左脇からは一本の細い腕がだらりと垂れ下がっている。砂利を敷き詰めたような皮膚に全身を覆われており、頭部には目も鼻も耳もない。代わりにもなるまいに、口は上下にふたつ連なっており、捻じくれた牙が口腔を埋め尽くすように生えている。
まさしく、異形であった。
その異形と対峙するのはひとりの少女。夏物のセーラー服を身に着け、怪物の咆哮にわずかたりとも怯んだ様子もなく、まっすぐにその美しい双眸を向けていた。その両手には白銀に輝く大剣が握られ、ゆったりと下段に構えている。
少女の背にかばわれているのは傷を負った赤髪の少女だった。年の頃はセーラー服の少女よりも数歳下、というところだろうか。足から血を流し、痛みに喘いでいるのが見て取れる。
周囲には崩れた土砂と岩石。そのあちこちに、全身を金属鎧で固めた戦士たちがいた。しかし、彼らももはや満身創痍で地に伏している。この場に立っているのは、異形の怪物とセーラー服の少女、たったそれだけだった。
怪物の口から呼吸音が漏れている。口が二重にあるためか、不規則で、耳にするだけで身が汚れる醜怪極まる音だった。
一方で、対峙する少女は規則正しく息をついている。暴風の中でも凛と立つ、1本の若木の如く。
どれだけの間、この静かな対峙が続いただろうか。どこかで瓦礫が崩れ、がらりと音を立てる。
――ゴガァァァァアアア!!!!
それが合図だったと言わんばかりに、怪物が少女へと突進する。矢のような、という表現でも足りない。常人の目では突然姿を消したかに見える圧倒的な速度であった。
少女も怪物に向かって駆け出す。己の上背さえ越える刃渡りの大剣の切っ先を地に擦るようにして。
そして、怪物と少女が交差した。
互いに背を向け合いながら、時が止まったかのように動かない。一呼吸、二呼吸……やがて、元より不規則だった怪物の呼吸音がさらに乱れる。
怪物の身体が胴から両断され、どう、と崩れ落ちた。
セーラー服の少女が振り返り、その黒く濡れたような前髪をかきあげる。その表情は怪物と対峙していたときと一切変わらず、涼やかなままであった。
* * *
「うわー、つっかれたー。でもこれなら絶対バズるっしょ」
暗い部屋でディスプレイに向かい、少女が戦う動画の編集作業を終えた女が首をコキコキと鳴らし、両手を突き上げて背筋を伸ばした。
服装は上下ともにだるっだるのスウェットで、伸び切った襟元からは谷間が見える。そう、この女は巨乳を通り越して爆乳であった。
「で、これをアップして……っと。こんだけがんばったんだからなー、問い合わせがあるといいなー」
独り言をつぶやきながら、鏡の前で金色の長髪を手櫛でなでつける。
「さて、今日の日替わりは何かな。おなかすいたー」
金髪の女は、だるっだるのスウェットのまま、玄関を出て近所の居酒屋に向かったのだった。
このプロローグは2021/7/20に追加したものです。
それ以前に本作を読みはじめた方は、読まなくても本編の理解に支障はありません。
が、「閑話3」まで読んでくれた方なら、にやりとしていただけると思います。




