七章 「卑怯」
デビルゴブリンとの闘い。ギンとデビルゴブリンはこれまで互角の闘いを繰り広げていた。
しかし、体力の面ではやはりモンスターに分がある。
何とか現状を打破しなければ、ギンは敗北するだろう。
「まあ、やり方は色々っすよ。」
ギンは魔法剣に雷属性をまとわせる。
雷属性は、硬い皮膚や甲羅を持つ相手にも効果を発揮する一撃必殺である。
デビルゴブリンは突進してくる。
知能がそれほど高くはないため、攻撃は単調だ。
ギンはデビルゴブリンに雷の剣を突き刺そうとする。
しかし、デビルゴブリンは身体をひねり攻撃をかわした。
ギンの脇腹にこん棒による一撃が入る。
「がふっ!」
鈍い痛み。
ギンは一瞬、気絶しかけた。
デビルゴブリンは攻撃を放った後で、隙が出来ていた。
ギンはそこですかさず剣を振る。
デビルゴブリンはこん棒で攻撃を防ごうとする。
僅かにギンの方が速かった。
デビルゴブリンの身体に激しい電流が流れる。
デビルゴブリンは地面に倒れた。
「っはあ!やったっす!」
ギンは足がフラフラになりながらもデビルゴブリンの身体を掴む。
「コイツを役所の人に見せれば・・・魔法道場が手に入るんすね!」
クルルとホムラは、いきなりデビルゴブリンが消滅したのを見て、ギンが本体を倒したのだと確信した。
「あ〜あ〜!俺の負けかよ〜!」
ホムラは急な脱力感に襲われた。
「ギン様が倒したんですね!」
クルルは嬉しそうだ。
デビルゴブリンの住家から出て、平原の入り口の方へ走っていった。
ホムラもそれについていく。
ギンは、平原の入り口で寝ていた。
隣には、気絶しているデビルゴブリンとトビマルがいた。
クルルはくすくす笑いながら、ギンを起こす。
「ギン様!デビルゴブリンを倒したんですね!」
ギンはホムラを見てニヤッと笑う。
「俺の勝ちっすね。」
ホムラは悔しそうな表情をした。
魔法道場を夢見て王都にまで来たのだから、無理もない。
「俺の負けか・・・。しょうがねえ。他の街で魔法道場やるしかねーな。」
ホムラは大きなため息をつく。
ギンは満足そうに起き上がる。
トビマルも起こす。
トビマルは、気絶したデビルゴブリンを見て、ギンを褒めたたえた。
ギンは王都に向けて歩きだす。
その時−。
突然、身体が焼けるような痛みに襲われる。
ギンの身体は、痛みに耐え切れず地面に倒れた。
「ぐ・・・あ・・・。」
何が起こったのか分からない。
クルルの悲鳴が聞こえる。トビマルの鳴き声も。
ギンが辺りを見回すと、デビルゴブリンの姿が消えていた。
気絶していたのだから、自らの足で逃げ出したということはまず無い。
ギンがゆっくりと上を見上げると、そこにはホムラがいた。
片手にはデビルゴブリン。
「て・・・め・・・まさ・・・か・・・。」
ホムラが、ギンに炎属性のカタナを突き刺しデビルゴブリンを奪ったのだ。
ホムラは満足そうに笑う。
「隙を見せた方が悪いんだぜ。」
クルルは、ギンの近くに駆け寄り地面に魔法陣を描いた。
クルルは少しだけ治癒魔法が使える。
身体の怪我を少しだけ癒すことが出来るのだ。
「安心しな。それほど強くはやっちゃいねえ。死にはしねーよ。」
クルルは泣きながら、ホムラを睨んだ。
トビマルは風の魔法で竜巻を起こし、ホムラの周りを包む。
しかし、ダメージは与えられていないようだ。
「残念だったなあ。風なんか起こした所で、炎の勢いを強くするだけだ。」
ギンは、こんなトビマルの表情を見た事が無かった。怒りに羽を震わせている。
ギンは身体が少し楽になったのを感じ、立ち上がった。
「お前には、プライドが無いんすか?」
ギンはホムラを睨む。
「分かってね〜な。」
ホムラはやれやれ、といった感じで首を左右に振る。
「俺は昔、軍隊に入って戦地に赴いていたから分かるんだよ。プライドとかほざく奴はすぐ死ぬってな。」
ギンは、風の属性を剣にまとわせ、一瞬でホムラの目の前まで移動した。
ギンはそこから剣を振る。
しかし、風属性は炎のカタナに吸収されてしまった。
「さっきカラスに言ったことを聞いていなかったのか?」
ギンは火の粉が身体に降り懸かるのを感じた。
「熱っちぃ!」
ギンは風の剣が効かないのを判断して、雷属性にタイプを換える。
「ホムラ斬り!」
カタナから発した炎は、龍を形作る。
龍は、ギンの身体に纏わり付いた。
「があああっ!」
身体は火傷だらけだ。
痛みで剣が上手く持てない。
「俺は、目的のためならなんだってする。たとえ殺しだってなあ!」
ギンは、魔法剣にまとわせていた雷を一度解除する。
コイツは強い。
俺と同格か、それ以上の力を持っていると見て間違いない。
この状態でコイツに勝つ手段があるとしたら、それは一つだけ。
クルルは何かを察したのか、叫んだ。
「ダメです、ギン様!それを使ったら・・・!」
ギンの魔法剣が、これまでに無いほどの激しい光を放つ。
光り輝く剣。
「コイツが俺の切り札、光属性の剣っすよ。」
次回 光属性の力