肉体言語的な直訴
傷ついて痛い描写がありますのでご注意ください
「良いですか、何かあったら俺が起きるまで保留にしといてくださいね。真白がわざわざ動くレベルの仕事はそうそうないですからね。出かける時は絶対に二尾と行ってくださいね。変なもの拾わないでくださいね。変なものについて行かないでくださいね。緊急時には起こしてくださいね」
「はいはいわかったよー」
ここ数日繰り返された注意はもう耳にタコが出来るくらい聞いてるので早く寝なさいと、銀流の身体を繭の中に押し込む。
特大サイズの繭。加護をこれでもかと詰めた最高の快適ベッドは今回長い眠りにつく銀流のために作った特別性だ。
前に私が眠りについたように
今度は銀流が眠りたいと言い出した。
恐らく主上が待機しているのだろう。そうと分かれば早く寝て欲しいのに、銀流はぐだぐだ言って全然眠りにつかない。
私の移動の足としてわざわざ二尾を本体から完全に切り離してまで残しているのに。二尾はめっちゃいい子なのに本体が言うことを聞かない。というか本体が目覚めた時二尾は元に戻れるのだろうか。
「早く寝なよ銀流」
「どうしよう。長時間真白から目を離すのがものすごく怖い…」
「大丈夫だから、もー」
「あっ!真白!!」
いつまでもぐだぐだと同じことを繰り返すので、繭の入口塞いでやった。繭を破って出てくるんじゃないかと心配したけれど、銀流は諦めたのかそのまま中で静かになった。
念の為に繭に耳を当てて確認すると、中からは静かな吐息だけが聞こえた。
やっと眠ったかと安堵して、繭の隣に座り。
目を閉じて、眠る訳では無いけれど瞑想をする。
私たちが住処にしている大樹はいつしか世界樹と呼ばれているそうだ。
大きな大きな樹は私たちの神気のお零れを貰ってますます大きく育って行ってる。
またサイズだけではなく私たちの神気をこの世界に生命力として還元する貴重な樹に育ちつつある。
これは銀流と私の自信作だ。
何となく外に出歩く気はならないので、世界樹のメンテナンスをする。
10年かけて世界樹の寿命の枷を外し
10年かけて世界樹の容量をその樹のサイズに呼応させた
途中、二尾は何度も私の許可を得て外を見回りに行ったけれど私は住処から1歩も出ず、また銀流起きてくることはなかった。
次は世界樹の果実を改造でもしようかなーと思っていると二尾がワンワンと吠えた。
「どうしたの?」
『耳長族が守護者の代替わりをしたそうで、挨拶をしたいそうです』
「そう。行かないって伝えといて」
『りょーかい!』
二尾は元気よく飛び跳ねるとあっという間に駆けて行った。
どうでもいいけれど、銀流の分身体なのに二尾はなんであんなに幼い感じで可愛いんだろう。
二尾=銀流なのだから私より圧倒的に年上のはずなのになんかこう、弟とかみたい。
帰ってきたら毛並みを整えてあげようかなと思い、適当な木で櫛を削り出しているとすぐに二尾は帰ってきた。
「マァシロ様、御機嫌麗しく。今日も変わらぬ美しさで」
美味しいおまけを引き連れて。
とても無の表情で目を据わった二尾は美味しい、あの、祝福をあげたエルフを連れてきた。
エルフは相変わらずキラキラした目で私を見て、彼から送ってこられる信仰心はとても美味だった。
「実は此度、我らの王が代替わり致しまして。どうぞ即位の義に我らが神々もいらして欲しいと強くお望みなのです」
「……次代の誕生を祝います。けれど私はここで仕事がありますので」
「どうしても!どうしてもダメでしょうか?最近若い民たちは神を敬わない不信神ものが増えて来てしまっているのです。あれらもマァシロ様の御姿を拝見したら、使えるべき存在だと言うことを思い出すと思うのです…!」
うーん。
各種族の増加とともに、捧げられる信仰は十分増えている。初めてこの世界に来た時のように大技をぶっぱなすこともない現状、この信仰心で十分満たされているのだけれど……
わざわざここまで来て、断るのは心が痛む。
まあ、たまにはお散歩も必要かな。
嘆息をついて私は二尾の上に座った。
「二尾、連れてって」
『えー……』
嫌がりながらも二尾はそのサイズを牛並にふくらませた。視覚的には尻尾が一本なだけで、銀流と全く同じだ。
渋る彼の毛並みを撫でると、ゆっくりと二尾は歩き出した。それを確認してエルフを見て笑うと彼は輝く笑みで信仰を滾らせた。
そう言えば、彼の名前はなんだったかなあ……。
信仰の味は覚えているが、名前はさっぱり覚えていない。
耳長族の街まで頑張って思い出そうとしたけれど、記憶は全く戻ってこなかった。
「どうぞ!ここが王が収める中央都市です!」
都市、と言われて納得できるほどエルフの街は大きかった。
木と一体型の家や、樹上に作られた家、地上にある箱型の家など建築様式は様々で、奥に大きな家が見える。おそらくあそこに代表がいるのだろう。
大狐に乗った私と、美味しい人が共に歩くと笑笑と道に人だかりが出来ていく。だが誰も言葉をかけず手を合わせて祈り姿勢をとった。
彼等からは確かに信仰心を感じる……が。
不思議な者もチラチラといた。
信仰心を感じるものが半数。
何も感じないものが四分の一ほど。
そして粘っこい黒い意志を感じるものが四分の一程だった。
黒い意志は、信仰心の逆と言うべきか。神気が削がれていくような感覚がした。
これは何なのか、銀流が起きたら聞いてみよう。
そんなことを思いながら大きな家に二尾に乗ったまま入る。
すると目の前には私の祝福の証である白と赤の髪を持った青年がいた。
「よく来られた、神々よ」
私の強い祝福を受け継いだ存在。
けれど、彼から感じるのは黒い意志であった。
瞬間、体毛がザワっと毛羽立った。
私は大丈夫だが、二尾と美味しい人は死ぬかも。
そう思い羽を拡大させて、咄嗟に二人の前に駆け出す。
「そして、死ね」
大きな羽を広げて二人の前に立つのと、魔力の塊が肩を抉るのは同時だった。
肩、そして羽、胸、足、腕。
顔も掠めた攻撃。激痛とともに鱗粉と無色の血液が飛び散る。
「我々に神は必要ないのだ!滅ぶがいい!」
え、そうなの?でもなあ、復旧はまだ終わってないし。首を傾げるとカハッと口から血が出た。
これは緊急事態かな。
『ウオォォォォン!』
銀流を起こそうかなと思った瞬間、背後から大きな唸り声が聞こえた。
二尾、どうしたのと振り向こうとした刹那。
ドガシャアアアアアアアア
と言う爆音が外から聞こえた。
「な、何事……」
けれど、私に攻撃したエルフは…いや、それ以外のエルフも動くことは出来ない。
飛び散った鱗粉を利用して、麻痺の術を飛ばしたからだ。
「君の意志はわかった。少し相談する必要があるから待ってね」
と言った瞬間、王エルフの背後の壁が吹き飛んだ。
壁があった箇所からこちらを覗き込んでくるのは、見慣れた巨大な銀の毛並み。
「あ、銀流おはよ『ぐるぉぉぉぉぉおおおお!!』」
久しぶりであった相棒への挨拶は激怒した彼の遠吠えによって掻き消された。




