異世界転生 忍者石川五右衛門
レティシア王国にある、とある貴族の屋敷のベランダで一人の男が立っている。
「絶景かな、絶景かな。春の宵は値千両とは、小せえ、小せえ。この五右衛門の目からは、値万両、万々両……」
夕暮れ時、桜に似た花を見て、その男はそう呟いた。男の名前は石川五右衛門。忍者であり、盗賊である。
石川五右衛門は、文禄3年、京都三条河原にて処刑された。その処刑されたはずの石川五右衛門は、なぜ生きているのか?本人も不思議に思っている。
高温の釜の中で息絶えたと思ったら、「もしもし」と肩を叩かれて目が覚めた。目を明けると、目の前に背広を着たサラリーマン風の男が立っていた。
「石川五右衛門さんですね?」
「……誰だお前は」
サラリーマン風の男は背広の内ポケットから名刺を取り出すと、石川五右衛門に差し出した。名刺には<死神>と書いてあった。
「あなたは盗賊でありながら、庶民ではなく権力者から盗んでいるということで、庶民から英雄的扱いをされている。その結果、閻魔さまが頭を抱えているのです」
この男は何を言っているんだ?と思っていると、死神は苦笑いをしながら、あることを切りだしてきた。
「そこで、あなたには、天国でも地獄でもなく、異世界に行ってもらいます」
「異世界?なんだそりゃ?」
異世界という単語を聞いて、さらに石川五右衛門は、眉を顰めた。
「あなたは文禄3年に処刑されているのです。その処刑された人間が、おいそれと生き返ることはできません。それこそ周りはパニックになりますよ」
死神は背広のズボンのポケットから一冊の文庫本を取り出すと、その表紙を石川五右衛門に向けた。その文庫本は異世界が舞台のライトノベルだ。
「ちなみに異世界とは、このような感じです。こんな世界に行ってもらいます」
死神に手渡されたライトノベルをパラパラと捲りながら、「で、この俺を異世界とやらに行かせて、何をさせたいんだ?」と言うと、死神は「さあ?」と答えた。
「さあ?って、お前は何も知らないのか?」
「知らないのか?って言われても、死神の中でも下っ端ですからね」
「断ることは――」
「できません」
「だろうな」
そういうと石川五右衛門は顎を撫でると、ニヤリと笑った。
「いいさ。行ってやるよ。その異世界とやらに」