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1-09 君の名は?

 私が目を覚ましたのは、その日の夜でした。設営されたテントの中に運ばれて、眠っていたようです。

 祈りは無事に届いたようで、不死者はすべて土に還っていったと報告を受けました。


『誰が全力で祈れと言った』

「初めてでしたので、加減がわからなかっただけです……」

 頑張ったのに、ちょっとぐらい誉めてくれてもいいと思わない、ねぇフォンラン?


 心配してくれていたのか、ずっと枕元で待っていてくれたフォンランに声を出さずに不満を漏らしてみる。

 まあ、竜神様もずっと一緒に居てくださったのですから、そこは感謝しています。


「ライムハルトです、ユーフェミア様が目覚めたと聞いた。入っても大丈夫だろうか」


 服が乱れているわけでもないし、侍女さんもいるし、問題ないわね。


「どうぞ」

「失礼する」


 畏まって入ってきたライムハルト様の様子が何だか変な感じです。


「ある程度は聞いていると思いますが、不死者はすべて消え去り、土地も不浄な気配が消えたとのことです。私の見立てでも、浄化されていると思われます」


 よかった、全力を出した甲斐があったかな。


「今までの数々のご無礼をお許しください聖女様。陛下を守ることも叶わず、聖女様とも知らず無礼を働き、もうこの命も惜しくありません。聖女様が望むのであれば、この命も竜神様へ捧げましょう」


 ああ……ライムハルト様の症状が悪化してしまいました、どうしましょう。


「あの、勘違いなさっていますが、私は聖女ではございません。この力は竜神様からお借りしているものです。それに陛下はご無事ですし、陛下御自身もお気にされておられませんわ」


「ですが……」


 ライムハルト様って、こんなに思い詰める人だったのですね。騎士団長を任されるだけあって、責任感が強いのでしょうけど、ちょっと行きすぎな気がします。

 でも、聖女様って思ってくれているのであれば、説得できるかも。


「では、こういたしましょう。私を聖女と思うのであれば、私の願いを聞いてください」

「聖女様のお心のままに」


「その命は、貴方が守るべき者、守りたい者を守るために使ってください。命も、爵位も、地位も、捨てる必要はありません、誰も望んではいません。それを理解した上で、貴方の勤めを果たしなさい」


 私の台詞を聞いて、俯いていた顔を上げ、忘れていた大切なことを思い出したように、瞳を輝かせたライムハルト様。

 やっと、分かってくれたのね。


「聖女様のご慈悲に感謝いたします。今、この日、この時をもって、我がライムハルトの命と剣は、聖女様を守るために、聖女様が守る世界のために捧げましょう」


 えっと……どうしてそうなるの!


「では、勤めを果たすべく、外で護衛しておりますので、ご用があればお呼びください。失礼致します」


『さて、話も終わったところで、もう寝てしまえ。明日になれば魔力も戻っているはずだ、一気に全部終わらせて帰るぞ』


 思っていたのと違う方向へ行ってしまったライムハルト様に、ご自分のテントで休むようになんとか説得して、私もやっと眠ることが出来ました。


 ◇◇◆◇◇


「では、ここまでくれば異変の起きている村は、竜神様が見つけてくださいますので先に行きます」


「ユ、ユーフェミア様、お待ち下さい!」


 朝になり、慌てるライムハルト様を放置して、私は竜神様に乗せてもらい次の村へと旅立ちました。


『ヤバい匂いをどんどん消すぞ。魔力の配分を間違えるな、一日で終わらせる』


 竜神様の宣言通り、一日で残りの村を回りました。残念なことに、すべて手遅れとなっていて、浄化と魂の解放を祈るのが私に出来る精一杯でした。


 匂いをたどり、呪いの元凶も浄化して、ライムハルト様や公爵軍の居る場所へ戻り、浄化した村の場所の説明も無事に終わります。


 我が家へ帰る私たちに、ライムハルト様が何か叫んでおられましたが、竜神様は無視するかのように、全速力で飛んでいき、夜にはお屋敷にたどり着いてほっと一息。


 気が抜けた私は熱を出してしまい、今度こそ寝込んでしまうことに……。


「申し訳ございません、竜神様。元気になったらすぐに森へ行って林檎を取りに行きますね。アップルパイ作らないと……」


「そうだな、これでも食べて早く元気になれ」


 そう言って差し出してくださったのは、綺麗に皮をむいて食べやすくカットされた、美味しそうな林檎。


「採りに帰ってくださったのですか?」

「帰るも何も、庭に実っているのを好きなだけ採ればよいだろう。お前の魔力で育てた樹だ、好きにすればいい」

 竜神様の視線の先は窓の外。屋敷の庭で大きく立派に育った樹に、たわわに実る沢山の林檎。


「えっと、竜神様、あれはスカーレット……様? この林檎も?」


「そうだ。それとだな、竜神様、竜神様といつまでそう呼ぶ気だ」

「だ、だってお名前ないのでしょう?」

「無いのであれば、付けて呼べばいいだろう。フォンランやスカーレットのように」

 これって、名前をつけて欲しいってことなのかな。竜神様って意外と可愛い?


「じゃあ、勝手に名前をつけちゃいますけれど、文句は言わないで下さいね」


 私はずっと、ずっと、そう、初めて会ったその時に思い浮かんでいた名前を口にする。

 まるでそれが、竜神様が生まれたその日から決まっていた名前のように、とても自然に。


「いい名だ。気に入った。助けて欲しくなった時は、俺の名を呼べ。血と()()の契約だ、ユフィーがどこにいようと助けに行こう」


 血と真名って、私は血を捧げた記憶なんて……うぁぁぁぁ!

 そう言えば、スカーレット様に名前をつけたときに、ゆ、指を!

 そ、それにユ、ユフィーって!


 色々なことを理解してしまって、あたふたしている私の唇に、優しく触れたのは甘くて優しい、林檎の香りでした。


 しばらく私の熱は下がりそうにありません。もしかすると、もしかしなくても、死んでも下がらないかも!


 おしまい

 第一章は終了です。


「第二章 お茶会は林檎の香り」へと続きます。


 舞台は王都へ移り、ユフィーは再び社交界へ。押し掛け家臣の騎士団長様も加わって……。


 本日更新致しますので、引き続きよろしくお願いいたします。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


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