1-08 騎士団長様の暴走
昨日、国王陛下に直談判という無謀な手段に出た私は、今日もまたお空の上です。本日も気持ちのいい朝です。
街のみんなも手を振って見送って下さいました。もう私が竜神様に乗って飛んでいくのは、街や村の人々にとって日常になりつつあるようです。
「さっさと終わらせて、アレを作って貰わないとな」
竜神様、そんなにアップルパイが気に入ったのかしら。朝食を食べ終わると、こんなことを言い出して、さっそくバルド公爵領へと出向くこととなりました。
シルフィードを迎えにいくためにも、私も頑張ろう。
「道は一応合ってると思いますけど、私も訪れたことはないので、迷子にならないように注意してくださいね」
「人の匂いが強くなってきたから間違ってはなさそうだ。だいたい方向は分かった、急ぐぞ」
そう言って速度をあげると間もなく、王城と同じように立派なお城が見えてきました。
そして昨日と同じように慌てる大勢の兵隊さんたち、同じような光景が繰り返されました。
そして気づけば目の前には、これまたお会いするのが二度目になるバルド公爵様が、不機嫌丸出しでいらっしゃいます。
「確かに陛下の直筆であるな。封も王家の物であり、疑うべくも無かったが……。我が領にも死病が蔓延しつつあり、一部で手遅れという話であったか」
「はい、閣下」
「何分、我が領も広くてな。すべてを把握しきれておらぬのも確か。報告は感謝しよう。元凶がこちらにあるという話はにわかに信じがたいが」
陛下からの書状を、雑に側仕えに投げるように渡して公爵様は話続ける。
「元凶の始末と、村の救済のために協力せよとのことだが、兵を集めるのにしばし時間がかかる。それまでは街で滞在して待て。追って連絡を入れる」
「そこまでして頂かなくとも、村の場所を記載してある地図をお借りできれば、竜神様と私で対処いたします。もともと私の我が儘で、陛下や閣下にお願い出たことでありますので……」
兵隊さんの準備を待って、兵隊さんと一緒に移動とか、何日かかるか分からないし、それに私たちだけの方が早く動けるから。
「いくら陛下の命であったとしても、他領の者に重要な戦略情報である我が領の地図を、見せるわけにはいかぬ。ましてや貸し出しなど出来ぬ」
その後も、面子とか色々と面倒なことを長々と説明されて、暴走しそうな竜神様をなんとかなだめつつ、結局公爵軍の準備を待って同行することになりました。
待ってる間の宿は公爵様が手配して下さったので、そこは素直に感謝いたします。
『人間の貴族というのは、どいつもこいつも面倒臭い奴らばかりだな』
「申し訳ございません、竜神様……もう少しで出来上がるので待っててくださいね」
私は不機嫌な竜神様をなだめるために、宿の人へ頼み込んで厨房をお借りしてお菓子作り。
一緒に来てくださった侍女さんは申し訳ないけれど、材料の買い出しをお願いしちゃいました。
とりあえず、宿の材料をお借りして、後で返します。
竜神様の機嫌を毎日お菓子で保ちつつ、待ち続けていると、公爵様の使いではなく、王都にいらっしゃったはずのライムハルト騎士団長様が、私の宿を訪ねて来られました。
「すでに家に別れを告げ、貴族の位も、騎士団長の座も辞して、この身一つではあるが、以後、よろしくお願い致す」
竜神様を止めきれず、陛下を危険にさらした責任を自ら取って、爵位も捨て騎士団長も辞めて城を飛び出してきたライムハルト様でした。
「こちらが、陛下からの書状であります。死病の件が解決するまでの間は、私の同行を認めて頂きたい」
陛下からの書状には、貴族は捨てた、騎士団は辞めたと言っているが、ワシは認めてはおらぬし、ライムハルトは大切な家臣であり、代わりの利かぬ人材だから、冷静になるまで預かって欲しいと書いてありました。
爵位も団長の座も、無事なようで何よりでしたが、いつまで預かっておけば良いのでしょうか……。
というより、死病のことが終わったら、旅にでも出ていきそうな雰囲気です。
そして、公爵軍の準備も整い、やっと出発。最初の村にたどり着いた私たちでありますが……。
「落ち着つけ! 陣形を崩すな!」
「な、なんだあれは……死人が、死人が動いている!」
「ふ、不死者だ……」
すでに村は手遅れとなっていて、穢れが大地を覆い尽くし、病に倒れた村人の魂は穢れに囚われ、不死者となってしまっていました。
「ユーフェミア殿が仰っていたことは、誠であったか……。不死者を倒せたとしても、この様子ではもう人は住めそうもないな、この村は……」
ライムハルト様は、変わり果てた村を嘆いています。
『匂いで分かってはいたことだ。ユーフェミア、祈れ。面倒なら俺が焼いてしまってもいいが』
皆さんが怯えてしまうので、ミニ竜神様モードですが、このままでも焼けちゃうんでしょうか?
「い、いえ、私がやります。でも、祈るって何を祈ればいいのでしょう?」
ちょっとくだらないことを考えてしまいましたが、死んでるとは言え、病に苦しんだあげく、今度は焼き殺されるというのはあまりにも可愛そうです。
私の祈りで安らかに逝けるのであれば、全力で祈りましょう。
『癒しは無意味だ。浄化と、囚われた魂の安らぎでも祈ってやれ』
「はい」
私は精一杯、全力の想いを込めて左手の指輪に祈りました。
「死せる大地に浄化を、穢れに囚われ、さ迷える魂に安らぎを与え賜え」
今まで感じたことの無いほどの魔力が、私の中から指輪に流れ、光となって村を包み込んで行きました。
「キュキュ!」
驚いたフォンランが私の肩と首をくすぐります。ごめんね、フォンラン。
あ、これダメかも……た、倒れちゃいそう……。
村を包む光が薄れるのを見たのを最後、私は気を失ってしまいました。
お読みいただき有難うございます。