1-05 ヤバイ匂いは美味しくありません
街への対応が終わってお屋敷に戻ってきた頃には、暗くなり始めていたので、お腹をすかせた竜神様の願いもあり、食事とデザートを用意して今日の活動は終了することになりました。
明日からは村々を飛び渡って、治療とお祈りをして回る予定です。街で今にも死にそうだった人たちの姿を思い出すと、今すぐにでも駆けつけたいのだけど、お父様、お母様、それに竜神様にも反対されてしまいました。
「キュ~」
「フォンランもお疲れ様。竜神様は……」
私の枕元で丸くなっているフォンラン、竜神様はミニ竜のまま、椅子の上に置かれたクッションで丸くなってお休みされたようです。
「ありがとうございます、竜神様。おやすみなさい」
◇◇◆◇◇
疲れていたのか、村人達を心配する思いとは裏腹に熟睡してしまいました。
湯浴みを済ませて食事をして、出発前に竜神様に林檎の枝について聞いておかなければなりません。
「竜神様のお屋敷から持ち帰った林檎の枝なのですが、どうすればよいのですか?」
「とりあえず、その辺に挿しておけば大丈夫だろう。落ち着いたらちゃんと魔力を繋げてやれ、そうすれば育つ。結構でかくなるからな、余裕のある場所に植えてやれよ」
竜神様のアドバイスにしたがって、お屋敷の端にある林からちょっと手前にしっかりと倒れないように挿しておきました。
魔力を繋げるってどうするのでしょうか?
どちらにしても帰ってきてからね、今は村を助けに行かないと!
アイテムボックスとなっているポーチに、お屋敷で備蓄している食料を詰め込めるだけ詰めて、出発です。
「地図を持ってきましたけど、近くからでいいですか?」
普通サイズになった竜神様の背中に乗って、街の空へ飛び立ちます。
とても天気がよくて、気持ちの良い空です。私たちに気づいた街の人たちが手を振ってくれています。
『昨日で匂いは覚えた。ヤバそうな匂いがきつい順番でも行けるが、ユーフェミアに任せる』
「ヤバそうと仰るのはどんな感じなのですか?」
『死にそうってことだ』
私は迷うことなく、ヤバそうな順番でお任せすることにしました。
◇◇◆◇◇
「ありがとうございます、巫女様!」
昨日もそうだったけれど、行く先々でこれなのでとても恥ずかしいというかなんというか……。
凄いのは私ではなくて、竜神様から頂いたエリ……聖水と、この指輪の力なんですけれど。
「数日中にはお屋敷から追加で食料が届くと思いますので、それまで今日お渡しした分で頑張ってくださいね」
ヤバそうという村はすべて、本当に危機一髪という感じでした。動ける人がどんどんと減っていき、食料を補うための狩りにも出ることが出来ずという悪循環でした。
昨日まで生きていたけれど、私の到着まで耐えれられず、亡くなってしまった人も少なくありませんでした。
それでも、誰一人として私に怒りをぶつけてくることもなく、感謝だけされて、心が重いです。
「井戸の水は毎日飲んで、お料理にも使ってくださいね。身体は毎日拭いてください。元気になってきたら、畑全体に少しで良いので井戸の水を撒いてください。ちょっとだけ、畑が元気になるかも?」
最後だけは疑問系です。私が勝手に大地に恵みを祈っただけなので、効果があるかは分かりません。
重傷者が多い村を回ったので、今日一日だけではすべての村は回りきれませんでした。
『この辺でヤバそうな匂いは全部消えたから、あとは明日でも大丈夫だ。今日は帰るぞ』
本当はもっと頑張りたかったのですけれど、私の重くなった心は竜王様に逆らえませんでした。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
遠くからでも竜神様の姿は目立ったのでしょう、アリスが笑顔で出迎えてくれました。
荷物を置くと、アリスにせかされるように裏庭に案内されました。急いで作ったような、塀と屋根の中には、木で出来た箱のようなものにたっぷりと張られたお水。
「お風呂でございます、お嬢様。街の大工に急いで作らせました。と言っても、暖めるのはフォンラン様のお力が必要なのですが……」
作るのも大変でしょうし、それ以上にこれだけのお水を用意するのにどれだけの労力をかけたのか、それだけで胸がいっぱいになってしまいます。
「ありがとう、アリス。せっかくですし、一緒に入りましょう!」
重かった私の心は少しだけ軽くなりました。
食事をして、お父様とお母様にもお風呂に入って頂いて、使用人達にも折角なので入ってもらうことにしたので、フォンランはちょっとお疲れ気味です。
街で買ってきた果物をあげたら、すぐに元気になったのですけれどね。この子、狩りもするけれど、基本草食なのかしら?
そんなことを考えながら、今日も一日が終わります。明日で全部、終わると良いな。
◇◇◆◇◇
次の日。
食料品もアイテムボックスに補充をして、昨日回れなかった村を巡り、領内最後でもあり、隣の公爵領に一番近い村でお祈りが済んだところで、竜神様の雰囲気が変わりました。
「どうかされましたか、竜神様?」
『ヤバい匂いがする』
「でも、領内はこれで最後ですよ。どちらの方角ですか?」
『あっちだ』
竜神様が首を向けたその先は、お隣の公爵領を向いていました。
「そちらは公爵領です……勝手に入るわけには……」
『それなら仕方がないが、かなりヤバいぞ。と言うか手遅れだな』
「そ、そんな!? 最初に死病が見つかったのは我がコルドブルーの領内ですよ、公爵家の領内で死病が発生しているなんて噂にもなっていません」
『そんなことは知らん。それに病のもとになった呪いの元凶も似たような方角のようだ。ここまで来てやっと見つけたんだがな』
私には何がなんだが、混乱してどうすればいいのか分からなくなってしまいました。
勝手に領を越えて助けに行くのは簡単ですが、相手は公爵様です。お父様にきっと迷惑が懸かってしまいます。
『とりあえず、帰って相談してみればどうだ。どちらにしても、今行ったとして誰も助けられないと思うがな。だが、元凶は取り除く必要がある』
「……はい、そうします」
後ろ髪を引かれつつ、お父様に相談するため、私たちは一度お屋敷に帰ることにしました。
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