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1-04 祈り

「旨かったぞ、ユーフェミア。あと足りぬから食事の準備をしろ。俺は肉が食いたい。食事をして一晩休めば出発だ」


 それって、手伝ってくれるという意味でしょうか竜神様!


「あ、ありがとうございます! でもお肉ですか? あいにく持ち合わせは固い干し肉しかなくて、竜神様のお口に合うかどうか……」


 最終的に、お肉はフォンランがウサギを三匹捕まえて、アリスが綺麗にさばいて、私が美味しく焼きました。


 ほとんど竜神様が食べてしまわれたけれどね。食いしん坊さんな竜神さまでした。


 その日は、お屋敷の部屋を貸して頂きましたが、とても嬉しいことにお風呂がありました。


 お水と火加減はフォンランがやっぱり活躍してくれました。便利でふわもこで可愛くて、最高の狐さんです。持って帰りたいなぁ、付いてきてくれないかしら。


『では行くぞ!』


 朝になって、竜神様は人ではなく最初に会った白銀竜の姿でした。


「あの、行くと言ってもどうやって?」


『背中に乗れ』


「えっと、出来れば馬車と馬を持って帰りたいのですが……」


『面倒な娘だな……では馬車に乗れ、掴んで飛ぶ。馬は諦めろ、ここにいれば死ぬことはない。そのうち迎えに来てやれ』


「ごめんね、シルフィード……また迎えに来るから、絶対に来るから」


「ヒヒィン」


 馬を外して、私とアリスが馬車に乗り込むとフォンランが林檎の枝を咥えて馬車に飛び込んできました。


「キュキュ」

「一緒に来てくれるの?」


「キュイ!」

「ありがとう! 林檎の枝もちゃんと持って来てくれたのね」


『では行くぞ!』


 馬車の窓から竜神様の大きな爪と指が入ってきて、思わず悲鳴を上げそうになったけれど、なんとか我慢できたと思った瞬間、私たちの馬車は空へと飛び立ちました。


「アリス! 凄いわ、私たち空を飛んでいるのよ!」


 お父様、お母様、私今、空を飛んでいます!

 待っていてください、必ず民を、みんなを救って見せます。


 しばらく空の旅を満喫していましたが、ふと疑問に思ったことを竜神様に尋ねてみました。


「ところで竜神様、お父様のお屋敷というか領都の場所はお分かりになっていますか?」


『そんなもの、匂いを辿れば容易いこと』


「アリス、私、臭いますか?」


「大丈夫です、お嬢様。昨日しっかりとお身体を洗わせて頂きましたから!」


「そ、そうよね……」


 そして遂に、お父様のお屋敷が見えてきました。そして、巨大な竜の姿を見て、領民達が大騒ぎしているような気がしないでもありません。


 バサバサとゆっくりと羽ばたきながら、静かに私の乗る馬車がお屋敷の庭に降り立ちます。


 なんとか竜神様の起こした風に立ち向かいながら、街から集まった数人の兵士が剣を持って取り囲みます。


「皆さん、大丈夫です。ユーフェミアです! 竜神様と共に戻って参りました」


「ユフィ!」

「お母様!」


 竜神様の巨体に圧されることもなく、お母様が抱きついてくださいます。


「もう大丈夫です、お母様。街も、村も、民も、竜神様が救ってくださいます」


 お菓子の材料を惜しげもなく馬車に詰め込んでくれたお母様の勝利です。


「ああ、ユフィ……本当に……」


「お父様、ご心配をお掛けしました。集まった兵の皆様は街への説明へ向かって貰いたいのですが、構いませんか?」


「そうだな。皆も聞いた通り、ユフィが竜神様を連れて戻ってきた。慌てることのないように、街へ伝えて回ってくれ!」


 集まった兵士達は剣を収め、街へと散って行きました。こんな大きな竜を前にして立ち向かえるなんて、我が領の兵士はとても勇敢だったのね。


「ユーフェミア、さっさと行くぞ。井戸はどこだ? あと動けないほど弱っているものは居るか?」


「お父様?」


「竜神様、この度は我が娘の願いを聞いて――」


「――井戸はどこだと聞いている、動けないものは居るか?」


「こ、こちらです。動けないほど重症な者は屋敷には居りませんが、街や村には大勢いるかと思います」


 いつの間にか人型になってた竜神様、やっぱりせっかちさんです。


 お屋敷の井戸へやって来て、竜神様からの肩から掛けるポーチを頂きました。ちょっと古くさいけど、悪くはないデザインね。


「あと、左手を出せ」


 反射的に左手を出すと、すすっと素早く薬指に指輪を……って、竜神様! どこに指輪をはめているのですか!


 ちょっと前まで王家ゆかりの指輪が填まっていた左手の薬指には、新しく白銀に輝く竜の頭を象った指輪が収まってしまいました。


「あ、あの竜神様、これは一体……ど、どういうおつもりで?」


「この指が一番魔力の通りが良いのは知らんのか? 巫女の指輪にはここ以外ないであろう」


 そ、そういう意味でしたか、私はてっきり魂を捧げる誓いとかそんなことかと……私のドキドキを返して!


「それよりも、ポーチから薬を出せ。一本で良いぞ」


 言われるままに、ポーチに手を入れると不思議な感覚。確かに薬がいっぱい入ってますね、『エリクサー』……エ、エリクサー!


「あ、あの竜神様? 気のせいでなければエリ――」


「――あるだけ持ってきたからな、無くなったら終わりだ。まあその時は、その時で考えれば良い。井戸に中身を入れて指輪に祈れ」


 エリクサーにも驚いたけど、このポーチってアイテムボックスじゃ……って祈るの?


「あの、祈るって何にですか?」


「病と呪いだからな、『癒し』と『浄化』でも祈れ、あとはお前の魔力次第だ」


 適当な感じで良いのかな?


 キュポっとエリクサーの蓋を開けると、柑橘類の甘い香り。ああ、私とアリス、エリクサー飲んじゃったのね、なんてことなのかしら!


 王族でもきっと飲んだことないわ、というかこの国は持ってすらいないのじゃ……。


「早くしろ、次があるのだろう?」


「は、はい!」


 うーん、勿体ないけど、これは薬、薬、巫女の薬、そう、『聖水』よ!

 私はエリクサー改め聖水と言い聞かせて、井戸へ注ぎ込み祈りを捧げる。


「巫女の聖水に癒しと浄化、大地の恵みをもたらし賜え」


 何となく、それっぽい祈りが自然と口に出た。大地の恵みはおまけね。畑も荒れてるだろうし、病気が治ってもこれからが大変だから、おまじない!


「ふん、大地の恵みか……欲張りな巫女だな。次へ行くぞ、街の井戸で同じことをする、動けない者には少しで良いから飲ませてやれ、食事ぐらいは摂れるようになるはずだ」


 そういって再び竜形態になる竜神様。


「あの、竜神様」

『なんだ?』


「大変恐れ多いのですが、そのお姿だと民が怯えてしまいますし、街中ではもうちょっと小さくというか、可愛らしい感じには出来ませんか?」


「キュキュ!」

「そうそう、こんな感じに可愛らしく?」


 首もとが定位置になってしまったフォンランが、可愛らしさをアピールしてくる。


『面倒な……』


 そう言いつつも、ピカっと光ったかと思うと、両手で抱き締められるサイズに可愛らしくなったミニ竜神様の姿がそこに。


「何これ!? 竜神様、可愛すぎです! もうずっとこのままで良いです! 一生お世話します!」


 思わず可愛すぎて、ミニ龍神様に抱きついてしまいました。このフィット感が、天にも昇るような抱き心地です。


『お、おい、やめろ、やめんか!』


「お、お嬢様……」

「ユフィ、さすがに不敬ではないのか」


 そんなこと言われれも、可愛いものは可愛いわよ、ねえフォンラン?


「キュイ!」


 そのあとちゃんと正気に戻って、街の井戸も重症患者の処置も致しましたわよ。


 それよりも竜神様のお食事とデザートの用意が大変だったのは、また別のお話ですわ。


お読みいただき有難うございます。

念のため記載しておきます。

03と04を一時間ほど間違えて逆に投稿していた時間帯がありました。

ご注意下さい。

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