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1-02 竜神様は甘党?

狐ですが狐?です。キュキュ!です。

 ほんのりとした林檎の香りと、ふわふわとした心地よい感触に頬をくすぐられて私の意識は急速に覚醒していく。


「ここは……」

「キュキュ!」


 目を覚ました私の顔を覗き込んでいたのは、ふわふわな毛並みの狐?

 狐は狐っぽいけど、炎のような赤と凍えるような青白いの斑な毛並みの狐なんて居たかしら?

 林檎の香りはこの狐さんからのようね。


 私が上半身を起こすと、一声鳴いて狐さんは跳び跳ねていったその先には、神々しい白銀の髪と青い瞳の男性。よかった、今度はちゃんと服を着ている。


「目覚めたようだな巫女の娘よ」

「お嬢様、大丈夫ですか!」

「キュキュ!」


 三者三様の目覚めの挨拶でした。


 ◇◇◆◇◇


「巫女……ですか? 私が?」


「ここは曲がりなりにも聖域だからな。普通であれば立ち入ることもままならん」


 目の前で狐さんを首に巻いて、品定めするような視線で私を見るのが竜神様、ご本人だったようです。


 そしてどうやら、私の魔力は巫女という資質を持っていたようで、そのお陰で結界に守られた竜神様の聖域へたどり着けたみたいです。


「あの、竜神様……あっ、私はコルドブルー男爵家のユーフェミア・コルドブルーと申します。ユフィとお呼びいただいて結構です」


「ふん、聞かぬ名だ。と言っても、俺自身も名など忘れてしまって久しいからな。例え巫女の血筋を宿す名であったとしても覚えておらぬだろうが」


 竜神様の名前ってそういえば、どこにも書かれてなかった。本人が忘れてるって何だか悲しいというか寂しいというか……って、本題を話さないと。


「では、竜神様とお呼びさせていただきますね」


「好きにしろ。あと、願いがあると言ったな。聞くだけは聞いてやる、早く言え」


 聞いてくれるようだけど、何だかせっかちな人ね竜神様って。


「ありがとうございます。私たちの国に広がりつつある死病を止めていただきたいのです。まだ、全土には広がっていませんが、私の父が治める領土を中心に蔓延しつつあるのです――」


「ゲホッゲホ」


 話の途中で突然アリスが咳き込んだかと思うとうずくまってしまいます。


「アリス!?」


「だ、大丈夫でございます、お嬢様」


 そうは言っているけど、少し血が出ているような……。


『血の混じる咳が始まり、いずれ立てなくなり、食事も出来ず、そのまま死に至るのでございます』


「アリス、貴女まさか!」


 故郷の屋敷で執事から聞いた死病の話を思い出してしまい、思わす叫んでしまいました。



「離れてくださいお嬢様、もし死病であればうつしてしまうかもしれません」


 そんなことを言われても、目の前で血を吐かれて心配するなというほうが無茶です。


「死病か……確かに厄介ではあるが、病ではなく呪いの類いだな。お主、そんなに恨まれるようなことを仕出かしたのか?」


「呪い……なのですか?」


 私自身、恨まれるような覚えなんてないし、お父様が人から呪われるほど恨みを買うような人だとも思えません。


「そこの女、目障りだ、これを飲んで休んでいろ」


 そういって、竜神様はアリスの足元へ小瓶を転がしてくださいました。


「元は呪いだが、性質は病だ。飲めば治る」


「あ、ありがとうございます! さあ飲んで、アリス……一人で飲めそう?」


 まだ苦しそうにしているアリスにかわって小瓶を拾い上げて、蓋を開けると柑橘類のような甘い香りがしました。


「ユーフェミアも念のため飲んでおけ、うつるのだろう?」


 そう言って、竜神様はもう一本、小瓶を転がしてくださいました。って、ありがたいのですけれど、もう少し渡し方ってものがあるような……。


 そう思いながらも、有り難く二人でお薬を頂きました。匂いと同じぐらい甘くて飲みやすいお薬でした。


 先ほどまで私が寝ていたベッドへアリスを寝かせると、まもなくして静かに寝息をたてて、彼女は眠りに就きました。


「疲れていたのね、アリス……ありがとう」


 そして改めて竜神様へ向き直ります。だって、死病は治せるのですもの!


「竜神様、改めてお願い申し上げます。そのお薬を分けていただけませんか、その上で更にお願いなのですが病の源である呪いを断ち切るお力をお貸しいただけませんでしょうか」


「どれほどの人が死病にとり憑かれているか知らぬが、全ての人へ行き渡らせる数などないぞ。まあそれなりに数はあるから、方法はなくはない。呪いを断ち切るすべも心当たりがないわけではない」


 そこまで言って、竜神様から強い魔力が滲み出て、私の身体を締め付けるように包んでいく。


「で、その対価にユーフェミア、お前は俺に何を差し出せる?」


 先ほどまであった希望で歓喜に湧いていた私の心が凍りつく。そうよ、このために私はここに来たのよ。


 お薬を分けてもらって、ぶっきらぼうだけど本当は優しいのかもって期待した私が馬鹿でした。病に犯されたお肉なんて食べても美味しくないわよね……。


「わ、私自身を捧げます。身体も魂も……まだ純潔のままですし、美味しいかどうかは分かりませんが、差し出せるのはこの身一つしかありません」


 嘘か真は定かではないけど、伝説ではその肉体と魂を捧げた乙女の願いを叶えたという話がある。私はそれに賭けてここへ来たの。


「ふん、骨と筋ばかりの人の肉など不味くて食えたものではない。だが、お前の魂は旨そうだな、悪くない。だが、足りぬ!」


 ちょっと、伝説さん話が違うじゃない!


「甘いものを寄越せ、手伝ってやる間、毎日甘くて旨いものを食わせろ、それが条件だ」


 えっと……甘くて旨いもの……お菓子でいいのかな?

 おかしくない?

 お菓子だけに?


 そういえば、こんな伝説もあったわね。竜神様はお菓子大好きな甘党だって話が……。


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