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1-01 婚約破棄されて生け贄にされる私の短い人生

新連載です。よろしくお願いします。


文末があれですがそっち方面へは進みません。初回だけです。

 魔力が誰よりも高くても、第一王子の婚約者になっても、大好きだった領都の人達は救えない。


 原因不明の死病が蔓延した故郷は今も苦しんでいるというのに、私はきらびやかな王城の一画で蝶よ花よと愛でられていた。


 と言うのは少し前の話。今はというと――


「死病の呪いが染み付いた、男爵令嬢にはお似合いの最期だわ。それでも国のために生け贄になれることを喜びなさい!」


 クルクル縦ロールな金髪が印象的な公爵令嬢様のありがたいお見送りで、私はお城を去ることになった。


 だから婚約破棄されたって、穢れた汚物扱いをされても、特に悲しくはなかった。嘘ね、ちょっと傷ついた。


「殿下は新しい婚約者である私が責任をもって慰めて差し上げるから、ご心配なさらなくて結構よ、元婚約者様。では、さようなら」


 嫌みったらしい微笑みを残して、公爵令嬢様は城へと戻っていった。


「故郷で死病が流行っていても、私はずっと王都にいたから綺麗な身体なんですけどね~」


「その通りでございます。お嬢様はいつも、お美しくて、光輝いておられます」


 故郷から迎えに来てくれたメイドのアリサが慰めてくれるけど、この子は昔から私に対して誉めることしかしないから……。


「それにしても殿下も薄情なお方ですね、見送りにも来られないなんて」


「だめよ、アリサ。それ以上は不敬になってしまうわ」


「ですが……」


 十分不敬だとは思うけど、私たち以外は御者しか聞いていないのだから問題はないはず。


「死病がうつると大問題だもの。弟のウルトが王都に残れたのは、アルフレッド殿下が陳情してくださったとお陰だと聞いています。決して薄情なお方ではありませんよ」


 ユーフェミア・コルドブルー男爵令嬢、十五歳。

 王子さまから婚約破棄されて、故郷から広まりつつある死病を収めるため、竜神様のもとへ生け贄に差し出される、天国から地獄への短い一生でした。


 ◇◇◆◇◇


「では、お父様、お母様、行って参ります。今まで育ててくださり、ありがとうございました」


「ユフィ!」


 故郷へ帰って来て、しばらく会っていなかったお父様とお母様と色々なお話をして、沢山笑って、それ以上に泣いたはずなのに、お母様は泣き崩れてしまった。


「後の事は心配せずに、務めを果たしてきなさい」


「はい、お父様!」


 跡取りのウルトは優秀だから、きっと大丈夫。お父様も民に慕われる、素敵な領主様だもの。

 あとは、この死病さえなんとか出来れば……。


 馬車に揺られ、深い森へと私たちは進む。もう少しで、竜神様が住まわれるという遺跡へとたどり着く。


「あいからわず、美しい髪でいらっしゃいますね、お嬢様」


 森を流れる小川のそばで馬車を止めて、身体を清めながらメイドのアリスが白銀色に輝く髪をすいてくれる。


 白銀の髪は高い魔力の証。この国では今、王妃様と私だけが持つ髪の色。もう意味はないけれどね。


「ありがとう。そういえば、噂は本当だったのね。獣も魔物も、盗賊すら出会わなかったわ」


 死病の噂を聞いて、盗賊の類いも逃げ出して、獣や魔物ですら姿を見せなくなって治安がいいのだけが救いね。


 もっとも、私もアリスも黙って殺されたり、食われたりするほど、か弱い乙女ではないのだけれど。


「でも、この森にはちゃんと鳥や獣たちが元気に暮らしているみたい」


 文字通り、死んだように静かだったここまでの道中とは違い、竜神様が住まうというこの森は、生気に満ちていて、小鳥のさえずりが聞こえ、ウサギが跳ね、綺麗な小川には小魚が光っている。


「そろそろ出発しましょうか」

「はい、お嬢様」


 竜神様が住まうと言われるこの森だけど、不思議と迷うことなく道のように続く、木々と木々の間を馬車は進んでいく。


 ふと、壁のような何かを感じて、その壁をすり抜けた気がした。


「お嬢様!」


 アリスが叫ぶように私を呼び、御者席へ続く馬車の窓から前を見ると、そこには大きなお屋敷が建っていた。


「ここが、竜神様が住まう……遺跡?」


 馬車から降りて、お屋敷を見つめる。ここだけ、丸く森が切り抜かれたように草原が広がっていて、その中心にお屋敷があって……あれは林檎の樹かな、季節外れだけど美味しそうな赤い実が実っている。


「遺跡というには、綺麗な建物ですね」


 バサッ~


 っという大きくてゆったりとした羽音が聞こえると、先ほどまで射していた柔らかな日差しを遮る何かが空を覆った。


『このような場所に、何用か、人の子よ』


 頭に響くような声に釣られて空を見上げると、そこには白銀色に輝く鱗を持つ、大きな竜がゆったりと羽ばたいていた。


「お、お嬢様!」


 咄嗟に、アリスが私の前へ庇うように立ち塞がります。


「大丈夫よ、アリス。きっと竜神様の使いよ、悪意は感じられないわ」


 と言っても、あんな大きな竜にとって、私たちなんて虫と同じぐらいの存在でしか無さそうだから、悪意も何も関係無さそうだけれど。


 それよりも、計り知れない魔力に押し潰されそう。アリスは大丈夫なのかしら。


「竜神様の住まわれる地へ、許可なく立ち入ったこと、お詫び申し上げます。この身を捧げ、お願いしたきことがございます。竜神様へお取り次ぎいただけませんでしょうか」


 降り注ぐ魔力に抗いながら、見上げるように、両の掌を合わせて祈るように、白銀の竜へと語りかけてみる。


 しばらくゆったりと羽ばたき、そして徐々にその巨体は高度を下げ、草原へと舞い降りる。


 そして、目映いばかりに光輝き、光の中から声が聞こえる。


「下界と隔たれた、俺の世界に来た久しぶりの客人だ。よかろう、話ぐらいは聞いてやろう」


 光が収まり、そこに現れたのは、私と同じ白銀に輝く、切り揃えられた美しい髪に、神話に出てくるような神々しく整った顔、逞しく鍛えられた身体……の青年男性……の身体、全裸。


 って、なんで、どうして全裸なの!


 殿方の裸なんて、婚約者のアルフレッド王子でもまだ見たことなんてないのに!


 ちっちゃい時のウルトは一緒に湯浴みしたりしてたけど、あれはノーカウントよ!


 訳のわからない言葉で頭の中が埋め尽くされながら、両手で顔を覆ってしまったけれど、その隙間から好奇心を抑えきれず覗いてしまった私は、何て穢らわしいのかしら!


「お、お嬢様!?」


 よく分からない興奮と、恥ずかしさと、浴びせかけられる強大な魔力。限界に達した私はその場で気を失ってしまいました。


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