お題「引き出し、コイン、金魚鉢」
ジャンル:ほのぼの、日常物
あらすじ:男の子が引き出しの中から見つけたコインを飛ばして、占いしようと思ったら、金魚鉢にクリーンヒットしてしまった!
お父さんの引き出しからそれを見つけた時は、飛び上がりそうなほどに心が躍った。
金色の錆びた、一枚のコイン。日本の硬貨にしては大きくて、日の光を受けて鈍く光る高級そうな代物だった。後ろに彫られているのは、モンサンミッシェルとか言ったものだったけな。
そんなものがぽつん、と、お父さんの部屋の机の引き出しから見つかった時は、これって運命なんじゃね!?と思った。これは、もしかしたらずっと昔に滅びた古の王国の金貨で、引き出しの中で僕に見つけられるのを静かに待っていたのかも。または、なにかすっごい魔法を使う時に対価として使うのかな。僕は考えるうちにわくわくして、居てもたってもいられなくなった。
僕はそっとこのコインをつまんで、手のひらに載せた。ずっしりと重い。これは僕のものだ、と僕は勝手に確信した。そしてこっそりとお父さんの部屋を出た。
部屋から出て一段落すると、僕はあたりを見回した。これを置くのにちょうどいい場所を探すためだ。家じゅうを駆けまわり、棚という棚を開け、隙間という隙間を覗いて探し回った。それでもいい場所は見つからず、僕は困ってコインを見つめた。
今さっき見つけた硬貨をじーっと見ていると、不意にとんでもないことを思いついてしまった。――これでコイントスをしてみたら、どうなるんだろう?
これは僕が見つけた、魔法の硬貨だ。僕の運命のコインだ。だったら、これを使って、自分の運を占ってみてもいいんじゃないか? いい感じに信憑性もあるだろうし。
思い立ったが吉日! と思って、僕は声を上げた。
「コインさんコインさん、僕の今日の運勢はなーに?」
そして僕は硬貨を、天井まで届くくらいに高く放り投げた。コインは飛び、くるくる回って、それで、がちゃん、という音がした。
あ、やばい、と僕は危機を察知した。あれは、あれだ。お父さんが社内ゴルフの景品で引き当てた、ちょっと高級な金魚鉢だ。ガラス製で、口のところにガラスのひだひだがあって、サザエさんで見たことある、と最初見た時は思った。ちょっと背伸びして金魚鉢を見ると、見事に真ん中の部分に穴が開いていた。
どうしよう、やらかした。僕はこの数週間で最大の焦りを覚えていた。中に何か入れてごまかそうと思い、ハンカチかボールか靴下を探しにいこうと振り返った時だった。
「……あ。」
そこには、僕のお父さんが無表情で仁王立ちしていた。
あの後夕ごはんで、僕はお父さんに今までで最高の回数だけ謝り、なんとか許しをもらった。聞けばあの硬貨は、僕のお父さんが若い時にフランスで買った思い出の品らしい。魔法のコインじゃなかったのは面白くなかったが、お父さんがお母さんに懐かしそうに話しているのを聞くのは、新鮮で楽しかった。
(終)
このお題はこれで終わりです。お付き合いいただきありがとうございました。
くすって笑ってもらえたなら幸いです。