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【運命の女神:恐怖の抽選器】

【運命の女神:恐怖の抽選器】


魔族と戦える武器を凛太朗は手に入れる事が出来たが、カトリーヌは彼にメンタル面で不安を感じていた。

死神の姿を見ただけで恐れている今の状況では、それが例え人間のあたり前の反応であっても恐らく持っている能力を発揮する前に悪魔の術中に嵌るに違いないと思ったからだ。

パワー攻撃ばかりで、知恵も工夫も無い戦いをする闇の眷属達は、場数を踏んで、経験値を積めれば、戦闘力だけで、それなりの戦いが出来るので問題はないが・・・しかし、だからと言って同じ様に悪魔と戦えるかと言えば、それは少し違うからだ。

メンタル攻撃を得意とする悪魔は戦闘力が高いだけでは決して勝つことが出来ない。

特に上級悪魔ともなれば、小さな不安から巧妙に心の隙を突き相手を戦闘不能にする能力を持っている。

凛太朗が悪魔や闇の眷属と戦うために、欠けているもの、それは、どの様な相手にも動じない強いメンタルと勝負運ではないか・・・。

その為には運命の女神フォルトゥーナに会い、幸運を授けて貰う事、それに、かなり危険な賭けだが、食せば豪胆無比になれると噂される地獄の底、腐界に棲む竜鬼の肝を凛太朗に与えるしか方法はないのではないか・・・と考えカトリーヌは早速、死神村から異界に通じる扉を開き、先ずは女神フォルトゥーナがいる冥界に向かった。

冥界は微睡や神達の『桃の実』がなる木から広がる花の草原近くの次元に存在し、行くには冥界の門を通る必要があった。

門に近づくと大きな馬に跨った髑髏顔の騎士と双頭のケルベロス達が、冥界に魔族が侵入しない様に警戒していた。

ここでは死神マスターであるカトリーヌは顔見知りなので、何時もは形式的に冥界に入る目的と滞在期間を確認されるだけだが、今日はタイガーと凛太朗を連れているので、入念に持ち物検査をされた。

骸骨騎士が目を止めたのは凛太朗が持つ妖刀村正だった。


「おおー、この片刃剣は知っているぞ・・・嘗て我と剣を交えた事がある友が持っていた得物ではないか・・・。

懐かしい、そうか悠久の年月を経て、ここにいる坊やの手に渡ったのか・・・ふふふふ、坊や名前を何と言う・・・」


「え・・・」凛太朗は近くにいるだけで威圧感を感じる髑髏顔の騎士に声を掛けられて言葉を詰まらせた。するとカトリーヌが変わりに答えてくれた。


「この者は創造神の眷属、名を凛太朗という、以後、お見知り置き願いたい。

それじゃ、髑髏騎士よ、身辺検めは済んだのだろう、先を急ぐので、ここを通してくれないか・・・」


「うふふ、そうはいかぬ、凛太朗と言ったか、少し興味が湧いて来た。どうだ、我と一度手合わせしてみぬか・・・」


「凛太朗は未だ抗魔官見習いの身、冥界随一の猛者として名高い髑髏騎士の手合わせなど出来る筈がない。」


「そうか、ならば、その剣で打ち込んで来るがいい、我から攻撃はせぬ、ならばよかろう・・・」


「凛太朗、どうする・・・」


「カトリーヌ、俺は、ただの人間だが、それでも男だ、そこまで言われては沽券に関わる。」


「そう来なくちゃ・・・」


凛太朗は妖刀村正を抜き鞘をタイガーに預け髑髏騎士に対峙した。

髑髏騎士は馬上では分からなかったが、下馬すると上背がニメートルを優に超えタイガーと殆ど変わらない大男だった。

警視庁で鳴らした剣が、異界の騎士に、どれだけ通じるか分からないが、持てる技を披露するだけ、そう心に決めた凛太朗は自分が得意とする上段の構えを取った。

上段の構えは天の構えとも言い、この構えを取っている場合、対戦相手を斬るために必要な動作は剣を振り下ろす事だけだ。凛太朗はニメートルを優に超える髑髏騎士に対し、悪手を承知で敢えて剣速があがる上段からの一刀両断に掛けた。


髑髏騎士は剣先を下に防御の構えをしているが、隙が見当たらない。

そればかりか威圧感は半端では無く気圧され額から冷汗が流れ落ちた。


「どうした、打ち込んでこぬか・・・」


その時、誰かの声が頭に直接、語り掛けて来た感じがした。

主人あるじよ!

よいか目を閉じ深く呼吸するんだ。そうすれば闘争心が高まる筈」

それは明らかに自分が手に持っている剣、村正からの声だった。


凛太朗は剣の声に従い大きく息をして呼吸を整えた。

すると、どうした事か、髑髏騎士から感じていた威圧感は嘘の様に消え平常心を取り戻した。

そればかりか、熱い力、闘気が体から沸き上がるのを感じた。

凛太朗は相手の間合いを考えながら周りを横走りし隙を伺い戦い方のイメージを作りあげた。


髑髏騎士は、その動きに動じることがなく、ただ、体の向きを変えるだけだったが、そこに一瞬隙を見た気がした凛太朗は一気に勝負を掛ける。

相手の意表を突き高く飛び上がり上段から剣を振り下ろした。


「ガキーン、ガキーン・・・」甲高い音が鳴り響いた。

凛太朗は一の太刀から折り返し二、三の太刀まで連続技で攻めたが、髑髏騎士はそれを受け流し捕らえる事が出来なかった。

だが、それは凄まじい打ち込みであり、髑髏騎士も驚いた様だった。


「死神マスターよ、この男の打ち込み、嘗て戦った我が友には未だ及びはせぬが、剣筋は、なかなかのものだったぞ・・・それに勘がいい、これからが楽しみだ。

凛太朗、腕を上げたら、もう一戦やろう、今度は手加減なしでな・・犬達、道を開けよ、さあ、行くがよい・・・」


冥界の門を抜けると、真っ白な世界に長くて折れ曲がった回廊があり、その先には所々に煉瓦造りの西洋料理店、朱塗りの中国風の建物、それに日本の大正初期の湯屋を思わせる建物が数軒連なり、最後には好奇心の小部屋という表札が掛かった建物があった。

カトレーヌの説明のよると冥界に、やって来た死者達から五欲(財欲・色欲・飲食欲・名誉欲・睡眠欲)から離れられない者とアニメ、漫画、玩具、映画、コスプレ、ゲーム、アイドルなど特定の趣味や愛好者を選別するそうだ。

湯屋の前では半乳を顕わにしたレオタード姿の絶世の美女の誘惑があり、冥途メイド喫茶なるものがあり、そこではメイド服を着た爆乳娘が「ご主人様、お帰りなさいませ・・・ハートキュンキュン」LOVEを飛ばして来た。

死神マスターのカトリーヌは、ともかくタイガーや凛太朗は普通に通れば誘惑に負けそうだが、創造神の眷属、抗魔官という事で、そこは、この一帯と三途の川を取り仕切る奪衣婆だつえばという老婆の鬼に欲避けのまじないを掛けてもらい事無き得た。

途中、タイガーの様子を見ていた奪衣婆が、「ははは、このババアの呪いが破られそうになったのは初めてじゃわい」と欲深さに呆れた顔で笑っていたのが印象的だった。


冥界の回廊の罠を通り過ぎると暖かい光に溢れる、何処までも真っ白い世界広がっていた。

そこからカトリーヌが神通力で作った魔法陣に、よく似ている幾何学模様の円環に乗り冥界の空に舞い上がった。

すると眼下の空間に浮かんだ浮遊島が幾つも連なっているのが見えた。

カトリーヌが言うのには神々の世界は異空間の時間の流れの中にあり、浮遊島には、それぞれに上位神がいるという話だった。

その浮遊島群のひとつに降り立った。

この島に降り立って、凛太朗が驚いたのは金銀や魅惑の光を放つ宝石で神殿が作られていたことだ。

ここにいる神は華やかで豪華な物が好きらしい。


神殿を守る煌びやかな鎧を着た天使に目通りをお願いしたところ、神殿の周りの花畑で散歩中とのことだった。


それで、カトリーヌが、花畑に向かって「女神フォルトゥーナ様、女神フォルトゥーナ様、死神のカトリーヌです。お顔をお見せ下さい・・・。」と声を掛けると花びらの渦が出来てその中から女神が現れた。


「私を呼ぶのは誰・・・暖かい陽射しに気持ち良くなり、ついうとうとして眠り込んでしまっていた様ね・・さて、誰かと思えば死神のカトリーヌではありませんか、最近、冥界の狭間にある『桃の木』を、あの牛馬鬼から取り戻した功績により、死神マスターになったそうですね・・・おめでとう」


「ありがとうございます。ところで女神フォルトゥーナ様、今日はお願いがあり参りました。」


「お願い・・・私にお願いとは何か・・・」


「今日、お伺いしたのは他でもありません。

こちらにいる者は創造神の眷属、魔族から神々の子達、人族を守る抗魔官見習いです。

戦いで不運に見舞われ命を落とさぬ様に僅かばかりの運の加護を授けて頂きたく参りました。」


「何・・・運を授かりたいとな・・・うふふ、見たところ、この坊やは、人間にしてはイケメンじゃのう・・・カトリーヌ、もしかして、この坊やに惚れているのか・・・」


「フォルトゥーナ様、滅相もございません・・・」


「ふふふ・・・カトリーヌ、図星じゃな、顔が少し赤くなっているぞ・・・それはさて置き、幸運を望んだすべての者達に加護を与えていては人の世の理を崩すことになる。

そこでじゃ、ここに来た者に公平になる様に、くじびきをするルールを作っている。

どうじゃ、やってみるか・・・」


女神が手を上げると三角くじ・スクラッチクジ・抽選器・抽選箱・ビンゴ等、クジのアイテムが現れた。


「他にも最近、話題のガチャなんかもあるよ!

さあ、好きなアイテムで運ためしをするがいい。

運は自分で掴みとるのじゃ・・・」


「面白そうじゃないか、女神様、どれが一番、当たりの倍率が高いのですかね・・・」


「そうじゃな・・・この中では抽選箱か抽選器の倍率が高い筈じゃ・・・」


「じゃ俺っちは抽選器というのをやってみるか・・・」


「タイガー、お前はしなくていい」


「姉貴、凛太朗だけというのはズルいすよ」

タイガーはカトリーヌの制止を振り切り抽選器を回した。


「こん、コロコロ、球が抽選器から転げ落ちた。」


「・・・おー女神様、当たりました。

球に何か書いてあります」


「ん・・・何と書いてある?」

「えーと、赤い球に100倍という意味ですかね、棒があって、100と書いてあります。」


「え、あなたはバカなの・・・それは大凶、マイナス100倍という意味、それを引いたのは貧乏神以来いない筈、ある意味では大当たりですが・・・」


「エー、それはないっすよ・・・姉貴、女神様にもう一度、やり直しをさせてくれる様に頼んで下さい。」


「自業自得と言いたいところだが、少し可哀想かも・・・フォルトゥーナ様、何とかなりませんか?まさかの運のマイナスとは・・・」


「私も1000年に一度位しかマイナスがでないから、この抽選器の危険なことを忘れていたわ・・・。

このままだと彼は石にでも、つまずいて頭を打って早々に死ぬ運命かも・・・とは言えルールを決めたのは私自身だし、そう簡単に破る訳にいかないわ・・・。

あ、そうだわ、助ける事が出来る可能性があるとしたら、そこにいるイケメンの坊やが、本当に100倍の大当たりを引くしかないわ」


「凜ちゃん、凛太朗様、お願いです。このタイガーをお助け下さい・・・」


「フォルトゥーナ様、もし、凛太朗が同じ様に凶を引いたら、どうなるのですか・・・」


「それはカトレーヌ、どうにもならないわよ・・・確率的に凶は後、100年は出ない様になっているから心配はない。

それに仮に出たとしたら運命を受け入れるだけだから・・・」


斯くして、凛太朗の運にタイガーの運命が重なった。

抽選器のハンドルを持つ手が僅かばかり震えた凛太朗だが意を決して回した。


「カラン、ころん、ころん」


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