【陰 謀】
【陰 謀】
「凛太朗、一つ忠告して置くわ・・・。
神の実を食べて抗魔執行官になった者は普通の恋は出来ないのよ!それは何故だかわかる?
気が付かないかも知れないけど抗魔執行官には神々と同じ様に幾千年の長い時を生きる定めがある。
それに比べて人間の若くて一番奇麗な時は、ほんの一瞬、考えてみて・・・。
人間なんて、幾ら化粧で取り繕っても齢、六十も過ぎれば老いが隠せ無い。惨いものだ。
だが、我々神族は歳を取らない。二人が永遠の愛を誓ったとしても、どうしても気持ちのズレが生じてしまう。
愛した彼女が例えば歳を重ねて八十歳になったとしよう。
だが、凛太朗は未だ若いままだとしたら、おばあちゃんになった彼女を君は愛せるかい?
まあ年を取って魅力のある人がいないでもないけれど・・・我々と人間との恋は決してハッピーエンドとは成り得ないんだ。
恋は一時の錯覚の様なものだから、出来たら忘れる事、
分かった?それが君の為だから・・・」
凛太朗には室長の悲しげな表情が心に沁みた。
彼女は、きっと報われなかった恋を過去に経験したのではないかとそんな気がした。
アーサー王との時間は大切な思い出として、心の片隅にしまって置く事にした。
室長はカトリーヌと同じ様に知った人の気を感じれば例え次元間であっても瞬間移動ができるらしい。
この世界に来た時も君の気を感じたからと彼女は言った。
迷いの樹海を通る事もなく、次元の狭間、灰色の世界を通り抜けると空間に浮かぶ扉が見えた。その扉を開けると円城寺証券の社長室だった。
あらためて彼女の超絶の能力に驚かされた。
彼女も、嘗ては平凡な女子高生だったという。ほんの少し人より霊感が強かっただけなのに、数奇な運命に、もてあそばれた挙句、何時の間にか創造主になっちゃったと彼女は、お道化ながら話してくれた。
元の世界に戻った凛太朗だが、一つ気掛かりな事があった。
パラレルワールドに入り込んだのはパーカー男を追い掛けてのことだったが、結局、あの男がどうなったのか分からずじまいだったからだ。
それにパーカー男は災厄になる種子を、この世界に持ち込むために次元を行き来していた節がると室長とカトリーヌに報告した。
「その男、もしかしたら人間社会に根を張る魔族の『草』かも知れぬな・・・?
魔族は時の彼方で起こった宇宙規模の大戦で神の域に達した人間のテクノロジーに敗れて後、表立って対決を避けるために姿を消して地下に潜っている。
今は人間社会に巧妙に溶け込み人間を弱体化させ魔族の世界にするために暗躍している様だ。未来・過去、すべての時代に於いてだ。
そうだ、カトリーヌ、凜ちゃんには草を刈る刺客になって貰おう。
抗魔執行官のメンバーで、人間社会で違和感なく活動できるのは凛太朗だけだからな・・・。
カトリーヌ、それでいいかい?」
「五月、彼に対草専任になって貰うのはいいとして、その『凜ちゃん』っていうのは何なの?
何時からそういう間柄になったのよ!
凛太朗に対して、馴れ馴れしくすれば他の抗魔官に示しが付かないので、やめて下さい」
「あはは・・・カトリーヌ、ごめん!」
「うーもう」
室長やカトリーヌ、それに他の抗魔執行官のメンバーは禍々しい気の正体を探る事や未だ生き残っているモンスターに対処する必要がある。
だから手が離せない事もあるが、当面は草専任担当者として、パーカー男の捜査は引き続き凛太朗が担当する事になった。
凛太朗は手掛かりを掴むために再び駒込駅前にあるマンションに向かい玄関が見える電柱の陰に張り込んだ。
ここに張り込んだのはデカ時代に培った勘だ。
今日はあいにくの雨、この前も、ここに張り込んだ日は確か冷たい雨の日だった。
だが、今日は特に酷いどしゃ降りの雨に見舞われた。
抗魔執行官になってから、運を使い過ぎて、どうも雨を呼ぶ男になってしまった様だ。
デカ時代は車の中での張り込みが殆どだったので、気にならなかったが、執行官に優れた捜査網や使える車両なんて物はない。だから慣れていない事もあるが、冷たい雨は体が冷えて応える。
時間を持て余しながらあれこれ考えてみた。
『室長は本流の次元と絡み合ったパラレルワールドは綻びやすく消滅する運命にあると言った。
男が何度もアーサーの棲むあの世界に行ったなら次元に綻びが生じて突然、崩壊する憂き目に合うかも知れない。それは絶対阻止しなければならない。アーサーがこれから平穏無事に生きるために・・・。
もし、パーカー男が、あの後、モンスターになって城を取り囲んでいたら、あの業火の中で生きてはいまいが、過去の時間に戻ったのだから、あの男は生きていると考えるべきだ。
以前は、このマンションを塒にしていた。
だから待てば必ず現れる筈だ』
抗魔執行官は魔族の『殺し屋』であり、ジャッジメント出来る権限を与えられている。
理屈さえ通れば相手が人間であろうと超法規的処置も許されている。
ただ、現場の後片付けは処理班が証拠を残さない様に処置する段取りになっているが、仕事は秘匿性を担保しなければならない。
凛太朗は危険な芽を摘むため、パーカー男が魔族であろうとなかろうと抹殺することに決めた。
張り込んで数時間、時間だけが過ぎ、その日は現れなかった。
六階にある男の部屋には照明が点いていない。何処かに出掛けているらしかった。
デカ時代も、そうだったが、段取り通り進まないものだ。
翌日の夕方、漸く動きがあった。
黒縁眼鏡の四十前後の男が以前と変わらない薄汚れたパーカー姿でマンションから出て来たのだ。
夜、照明を点けないで何をしていたのか?疑問が残るところだが、男の後を付けて暗殺の機会を伺う事にした。
男は駒込から山手線の有楽町駅で降り帝国ホテルに入った。
帝国ホテルは知る人ぞ知る高級ホテルである。薄汚れたパーカーを着ている様な男が利用するところではない。
だから奴が何用があって来たのかは知らないが違和感があった。
男はフロントがある広いフロアからエレベーターに乗った。
エレベーターから見えないフロアーの柱の影で様子を伺い待機する。
小一時間程して、今度は高級スーツを着た初老の紳士の後に続いてエレベーターから降りて来た。二言三言、言葉を交わし別れたが、凛太朗はその時、初老の紳士が気になった。初老の紳士は防衛相の副大臣だったからだ。
凛太朗には何か途轍もない陰謀が進んでいるのではないかという気がした。




