【カジノ:バカラとルーレット】
【カジノ:バカラとルーレット】
ここは食事もカジノ(casino:賭博)も出来るギャンブル酒場らしい。
目つきの悪い人外の者達が、よそ者が店に入って来たので、訝かしんでいる様子が伺えた。
死者や人外、霊の類まで集まり多種族の坩堝化して、カオス(混沌)状態のこの世界では、法律も無ければ官憲も存在しない事が容易に想像できる。
衝動的に相手を傷つけ殺しても何の咎めもないが、逆に危害を加えられない様に警戒しなければならない。
時々気まぐれの様にやって来る鬼達の亡者狩りを、やり過ごせば後は自由気ままな生活が待っている。
ある意味、力さえあれば欲望を自由に叶える事ができる羨ましい世界である。
三人はテーブルに腰を掛けると直ぐに獣耳のウエイトレスがメニュー表を持ってやって来た。
光の無い世界では食材は限られる。
だからメニューに書かれた品数は、そう多くない。
土モグラのステーキと赤じゃがいものポテト、それに一角獣の馬乳酒を注文した。
少し不可解な食べ物に思えたが、この閉ざされた暗闇が支配する世界でまともな物にありつこうと思うのが間違いなのかも知れない。
土モグラのステーキは噛むと肉の旨味がじわりと口に広がった。
凛太朗は、この肉が、上級国民の家庭で育ったこともあり、小さい頃からよく食べていた神戸牛の味と遜色ないのに驚いた。
赤いポテトは男爵イモに近く、丸いこぶし位の大きさだった。
表皮は薄く赤い色をしていて、加熱により、ほくほくした食感が楽しめ、とても美味しかった。
一角獣の馬乳酒は発泡性の濁り酒を酸っぱくして、ちょっと牛乳のような癖がある酒に思えた。
アルコール度数は、そう高くない様だが、ほろ酔い気分になれた。
タイガーは陶器で作られたコップで浴びるほど酒を飲んでいる。
凛太朗はタイガーが飲み過ぎに思えたので少し控える様に言おうと思ったが、日頃、カトレーヌからパワハラを受けストレスが溜まっているのだろうと考えなおして何も言わなかった。
もちろん、タイガーは変な男さと思っていたが、まさか痛みを受けてストレスを解消する変態的な性癖があることなど露ほども知らない。
チェリーは飲めない酒を飲んだのか、直ぐに隣で小さな寝息を立てていた。
凛太朗も何時もよりアルコールの周りが早く可笑しいと思いながらも気持ちよくなり居眠りをしてしまった。
この時は知らなかったが、馬乳酒は光が少なく殆ど作物が出来ないこの地で、ギガ鉱石の光で成長する紫ケシを好む一角獣から作った酒だった。
当然ながら馬乳酒には紫ケシの幻覚作用があるモルヒネ成分が少し含まれていたが、ここの住人は、例えその事を知ったとしても「何、飲んで楽しくなればどうでもいい事さ」と答えた違いない。
後にトラブルに発展する出来事は凛太朗が夢うつつ、眠りへと、いざなわれた時に起きた。
タイガーは虎の姿になれば300KGの巨体であり、馬乳酒程度の酒であれば飲んだうちにはならないが、この酒の人を惑わす麻薬成分がタイガーの本来持っている獣人の本能を呼び起こした。
獣人の悪い癖が頭を擡げレオタード姿の兎耳のバニガールの誘い乗りギャンブルを始めてしまったのである。
結果、神魔晶石のブレスレットを身に付けているとは言え、本来の運の悪さもあって、両替していたギガと大剣、それに皮鎧など身ぐるみを剥がされてしまった。
「起きてくれ・・・」凛太朗はタイガーに体をゆすられて目を覚ました。
「何・・・タイガー、その姿はなんだ・・・」
「まあ、裸のタイガーさん、マッチョだね、うふふ、素敵よ!」
チェリーに冷やかされて、女好きの割には初心で耐性がないタイガーは顔を赤らめた。
「すまん、両替した持ちギガをすべてルーレットで使っちまった。
凛ちゃん、いや凜様、直ぐに返すから、少しギガを貸してくれないか・・・」凛太朗はギャンブル依存症の人が言いそうな決まり文句でタイガーに懇願された。
タイガーの馬鹿さ加減に呆れて笑いが出そうだったが、身ぐるみ剥がされて、更に剣まで取られては助けない訳にはいかなかった。
この世界では紙幣より金属が価値がある。
財布に中の小銭が少なかった凛太朗が両替出来たのは30ギガ程、ここは運の強さに賭けるしかなかった。
取り敢えずタイガーにパンツを買い戻す様にと5ギガ与え、凛太朗は残りの25ギガで、プレーヤーとバンカーのどちらが勝つかを予想するシンプルなルールのバカラをする事にした。
戦闘以外に女神の力を使った事がなく、賭博に果たして使えるのか心配だった事もあり、スロットルよりプレイヤーの勝率が確率50%近いゲームを選んだのだ。
テーブルにディーラーからカードが配られた。
凛太朗は最初、プレイヤーに5ギガ掛けた。
カードはプレイヤーが3+6=9 バンカーは2+3=5 見事、掛け金が10ギガになって帰ってきた。
「凛太朗、バカラってどやったら勝てるの・・・」チェリーが興味津々に聞いて来る。
「何、簡単さ・・・カードは2枚から3枚配られ、その合計数の下一桁の数字が9に近い方が勝ちになる。
あと、2枚のカードの点数が「5点以下」であれば、3枚目のカードが追加できるルールがある」
「う~ん、面白そうね・・・」
数回、勝負を繰り返す内に凛太朗の手持ちのギガは90ギガまで増えたが更に欲が出た。
まだいけそうだ、もう少し増やそうと思った時、潮目が変わり、何故か急に勝てなくなった。
この時、カードをディラーがコントロールしているのでないかと疑いを持ったが、プロでない凛太朗にはイカサマを見抜くことが出来なかった。
一時は100ギガあったが、何時の間にか僅か10ギガ迄になってしまった。
凛太朗は、相手がイカサマをする以上、こちらも躊躇なく女神の力を使って勝負を賭けることにした。
ゲームをバカラからより配当が高いルーレットに変えて一発逆転を狙う事にする。
ギガをチップに両替しテーブルの前に座った。
ディーラーがウィール(回転盤)の中でボールを指で弾いた。
「女神よ!幸運を与えたまえ・・・」凛太朗は運の力を発動した。
凛太朗は一点張りで黒の10にチップを置き勝負を掛けた。
出現率は3%無いが、36倍の配当を狙った。
「ノーモアベット」ディーラーの声が掛かかり、客達はチップを置くのをやめる。
ボールは回転盤を周るが、やがてボールは力を失い凛太朗の狙った黒10の隣のポケット、赤の27に落ちそうになった。




