第2話 秋穂の告白
2019/09/25
足の小指を殴打した数分後、俺の部屋には気まずい空気が流れていた。
数ヶ月ぶりに対面する兄妹はお互いになんと声をかけたらいいかわからなくなって黙り込んでいた。
「………そ、それにしても久しぶりだな…っ!は、話すのなんて………」
「そ、そうだね……っ!」
その空気に耐えられず春希からの苦し紛れの会話も一言で終了した。
気まずい……。
ってか布団を取り上げたことに気づいて持って来たらしいけどなんで自分の部屋に帰らないんだよ……。
もしかして悪いと思ってんのかな?
布団さえあればこっちは別に気にしないんだけどな。
それに………。
今さら話をするなんて無理だ。
俺はなんて声をかけたらいいか正解が分からない。
「………お兄ちゃん……ごめんね……」
そんなことを考えてると、秋穂の方から声を掛けてきた。
「別に怒ってねぇよ。布団も返してもらったし……」
「ちがっ…!そのことじゃ………」
……そのことじゃ無いとしたらさっきの誤解のことか。
「……まぁ、誤解が解けたんなら別にいいよ。今度から寝ぼけて俺の部屋に勝手に入るなよ?」
「………その事もだけど………」
「…………?」
「ずっと……お兄ちゃんを避けてたこと…」
「………あー」
一応悪いとは思ってはいたのか。
そうだとしてもあんなに急に態度を変えられて怒りがないわけがない。
「……秋穂のこと……嫌いになった?」
でもこれでもたった1人の妹だ。
どんなに怒りが込み上がっても嫌いにはなれなかった。
「……嫌いになるわけないだろ。」
「ほんとっ!?」
瞬間、秋穂はぱあっと明るい笑顔を見せた。
不覚にも妹にドキッとさせられた。
「…………。」
「………どうしたのお兄ちゃん?」
聞いてみよう。
きっと無自覚に秋穂を傷つけてたのかもしれない。
前は怖かったけど今なら聞き入れれそうな気がする。
「秋穂……俺ってお前に何かしたか?」
「え?」
「……俺、全然わかんなくてずっと悩んでたんだよ。秋穂に何かしたんじゃ無いかって……」
「何の……」
「俺以外の奴らには楽しそうに話したりしてるのを何回も見たんだ。だけど俺を見つけるたびに逃げたり、隠れたり、視界に入れないようにしたよな」
「それは……」
「謝りたいから知りたいんだ。教えてくれないか?」
「………。」
その後秋穂は黙り込んだ。
ちらっと俺の方を見たり顔を俯いたままだったり。
「……わかった。答えなくていいよ。」
「え……」
「俺がいると家に居づらいよな」
「………?」
「新学期前に俺この家を出て行くよ」
「え、なんで……?」
「前から考えてたんだ。だからバイトだって頑張ったしその方が秋穂のためだと思ってお金を貯めたんだよ」
「………お兄ちゃ………」
「ごめんな?俺のせいで負担かけてばっかで……。父さん達には相談するよ。秋穂もそろそろ自分の部屋に……」
「………………くない……。」
「え?」
「お兄ちゃんは悪く無いよっ!!元々私達のせいだもん!お兄ちゃんを避けたくなかったけどっ……けどっ……けどっ……ぐすっ……」
「ちょっ!ちょっとまって!?」
いきなり目に涙を流しながら声を出す妹に気圧された俺はベッドにつまづいた。
「私だって………お兄ちゃんを避けたくなかったんだからね……」
ベッドに押し倒すかたちで秋穂は俺の上に乗った。
「………でも……先生が………そうしなきゃいけないって……そうしなきゃ離れ離れに暮らさなきゃいけないって………」
「…………は?」
大粒の涙が俺の顔に雨の様に降ってくる。
俺はそれを拭おうと思ったが秋穂の哀しい表情を見た瞬間体が動かなくなりその表情に釘付けになる。
「どういうことだ?」
俺が嫌いで避け始めたんじゃ無いのか?
秋穂を落ち着かせて、ベッドに座ってもらった。そして説明してもらった。
「……多重人格ぅ!?」
「………うん。」
「……なるほどな。」
一年半前、秋穂はたまに記憶が曖昧になることがあったらしく脳外科に診察したところ脳に異常はなかった。
何度も違う病院に行くも結果は同じ。
そしていくつか目の病院でもしかしたらと精神科病院に行き、通ったところたまたま診察日に別人格になっていた。それで多重人格の症状が現れ解離性同一性障害と診断された。
多重人格にはいくつかパターンがあり、秋穂の場合過度のストレスとそのストレスの内容により人格が発言したらしい。
現在秋穂本人を入れて5人いるらしい。
「……マジでそういうことが起きるんだな。ドラマみたいだな……」
「お兄ちゃんっ!」
「ごめんごめん。それでそれがなんで俺を避けることにつながるんだ?」
「人格を軽減させる方法がストレスの軽減なの。だからストレスの原因を除かないといけないの。」
「……………。」
「……どうしたのお兄ちゃん?」
「………その話からするとストレスの原因が俺ってことになるんだけど……」
「………あっ…!」
「…俺のことそんなに嫌いか?」
「嫌いじゃないよ!むしろ大好きだよっ!!」
「………へ?」
「………どうせ話さないといけないから言うけど私、お兄ちゃんのこと好きなの……」
「………そ、そう?なんか照れる」
「たぶんお兄ちゃん分かってない」
「……?どういうこと?」
「…………お兄ちゃんもしかして鈍感?」
「………?」
「私の好きは兄妹の好きじゃなくて恋愛の好き……なのっ!」
「………はぁ?」
瞬間、秋穂は少し黙った。
と同時に脱力したのか体重がのしかかった。
「………秋穂?」
「………だから………こういうことだよ……」
そういうと秋穂は俺の顔を両手で押さえつけた。
「え、ちょっ!まて……」
「兄妹だけど我慢できない………」
そういうと秋穂は頬を赤らめさせながらゆっくりと顔を近づけていく。
抵抗しようにも完全に上からロックされていて身動きが取れない!
「…やめろ………やめてくれ………」
「もしかして初めて?嬉しいなぁ。私も初めてだから……キス……しよ?」
その瞬間秋穂は唇を重ねてきた。
「───っ!!」
柔らかい感触と共に快感が全身を走らせる。
ねっとりと唾を絡めさせながら押し付けたり、すくう様に舐め回す。
「……やめっ……ろ……っ!」
「…んっ………ちゅ……ん…はぁ……ちゅ……んっ……はぁ……」
甘い息を首筋に移動させたかと思うと今度は首元を吸い付いて行く。
「ちょっ…!…あっ……!」
「…気持ち…あっ…いい……?」
「……いい加減に……しろっ!!」
「きゃっ!」
俺は思いっきり秋穂を振りほどいてベッドに押さえつける。
「はぁ…はぁ……。…なんのつもりだっ!?」
「……押し倒されちゃった。今度はお兄ちゃんから襲ってくれるの?」
「………バカにしてんのか!?」
「……バカになんかしてな………」
「……?」
「今良いとこなのに……」
そういうと秋穂は眠る様に目を閉じる。
数秒後に目を覚ましたと思うと顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。
「お、おおおお兄ちゃんなっ、何をする気なの……?」
「え?」
「お兄ちゃんのエッチっ!!!」
その勢いのまま振り上げた脚はそのまま春希の大事なところをヒットさせた。
ガン!
「………かっ……!」
「お兄ちゃん…?」
「……うぐっ」
そのまま秋穂にもたれかかりながら痙攣をする春希は泡を吹く。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「……まっ、まず謝れ……っ!」