第1話 春希と秋穂
2019/09/16 執筆
「…そういやお前の妹うちの学校来るんだっけ?」
「まぁな」
バイトが終わりロッカールームにて着替えてる途中で話しかけてきたのは原田徹平だった。
「俺はてっきりお前とは違う学校に行くと思っていたのに」
「俺も最近まではそう思ってたよ」
こいつは俺達兄妹の事情を知る数少ない友人である。気が効いて誰にでも優しくルックスだって良い。女子には人気が高く告白なんて日常的に行われている。
しかし彼女を作らない。
なぜなら……
「……ん?なに?」
「いや、なにも………」
アニメの女の子キャラ(ちょっと年下の)がプリントされたオタクTシャツにスマホのホーム画面がちょっとエッチな女の子キャラの画像。
これでわかると思うが彼は典型的なアニメオタクで恋愛対象は2次元らしいのだ。
「……そんなに気になるならDVD貸してやるよ。全話持ってるし」
「遠慮しときます」
つまり残念なイケメンなのである。
「へぇ、音巻の妹うちにくるんだ?今度紹介してよ」
その更に向こう側から聞こえる声の主は一つ上の月島優吾先輩である。去年の二月に俺らをこのバイトに紹介した人物だ。
彼はレジ、品出し、お客様対応はポンコツだが賞味期限の把握については神の領域に達している。
店長もいってたが前者は酷すぎてクビにしようとしたが月島先輩が来てから賞味期限のリクエストがない事に気づき試しに賞味チェックテストをすると全て瞬時に日時まで答えたのだ。
極端に出来ることと出来ないことが多いと有名で凄いのか凄くないのかよく分からない先輩である。
「いや、無理っすよ」
「なんだよケチ!紹介してくれたっていいじゃん!」
「いや、そうじゃなくて……」
「こいつ何ヶ月も妹と顔すら合わせてないみたいですよ」
「はぁ!?なんだよそれ」
「たぶん俺、嫌われてるんすよ。あきらかに避けられてるし……」
「へぇ。それだと可笑しくないか?うちは特に進学校とか部活が盛んってわけもないから普通なら別の高校に行くもんだと思うんだけどな」
「俺もそう思ってたんですけど推薦試験まで受けてたんで何かはあるんじゃないですかね?」
「ふーん…」
帰宅の準備が出来た3人は挨拶をして帰った。
そういえばいつ頃からだっけ?あいつが俺を避け始めたのは……。
たしか中学3年の秋頃だったけか……。
時期はだいたい分かるが原因はどう頭を絞っても分からない。
そんなことを考えてる頃には家にたどり着いていた。鍵を開けリビングへ行くと母さんが食器を洗い、父さんはビールを飲みながらつまみの枝豆を次々と口に運んでいた。
「ただいま……」
「おう!帰ったか我が息子よ!!」
「うわっ、酒くせっ!近寄んな!」
「……母さん……これが反抗期というものだろうか………お父さん悲しいぞ!」
「はいはい。それより夏希、早くご飯食べなさい」
「うーい。おっ、今日はカツ丼か!美味そう」
「……母さん……」
軽く流されたのか父さんは更に寂しそうにしてソファーの方へと戻る。こう見るとさすがに可哀想というかなんというか……。
「……そういえば夏希、あんた今日部屋の掃除したでしょ?」
「あ?悪いかよ」
「いや、悪くないんだけど私の楽しみを一つ奪ったからちょっとねー」
母さんは人一倍綺麗好きで掃除が趣味なのか汚れてれば汚れてるほどワクワクというかそんな気持ちで綺麗にしていくことを楽しみに過ごしてるのだ。
「別に自分の部屋なんだからおかしくないだろ」
「あらまぁ!親に対してその口の聞き方!反抗的ねー」
「いや、なんでだよ」
「まぁ最近エロ本が増えてきたから部屋に入れたくない気持ちもわからなく無いけど……」
「ちょっと待て。なんの話だ」
「え?あんた前はメガネ系だったのが最近は焦らしプレイ……」
「よし母さん、交渉しよう。今度から母さんに部屋掃除頼む。てか頼みたい」
「ふふっ、しょうがないわね」
……このクソ親。俺を社会的に抹殺する気満々じゃないか。
とりあえず隠す場所変えるか……。
「…ん?父さん何見てんの?」
テレビが付いてたからてっきりお笑いを見てると思ったが笑い声が聞こえないことから違和感を覚えた。
視線を父親の方を向くとビール片手に何かのページをめくる姿があった。
「あ、そうそう。あんたの部屋に行った時に机の上に懐かしいものが置いてあったからさっきまで私が見てたのよ」
俺が小学生の頃から中学最初の頃のアルバムだ。バイト前に見てそのまま本棚に戻さず机に置いてたものだ。
「いやぁ早いものだな。この頃は2人とも可愛いものだったなぁ。秋穂は今も可愛いけどな」
「可愛いくない息子でごめんね」
「……それがもう2人とも高校生か」
感傷に浸る父さんは涙が流れてきたのかそれを手で拭う。父さんは塾講師をしており、様々な生徒に対して勉強を教えていることから慣れているため勉強を教えて貰うとすんなり頭に入ることが多い。
性格は男らしいと言うよりは感情的で頼りになるというよりは優しく親しみ深い、そんな感じである。
「……そういえば母さんに聞きたいことがあったんだ」
「なによ」
「なんで秋穂はうちの高校に来るんだ?」
瞬間、両親はピタリと身体を止めた。
「え?」
……聞いたらダメな感じだった?
そんなことを思う程その空間は時間が止まったかと思うくらい冷たかった。
「……どうしたのよ急に……」
母さんの声を聞いた時時間が動き出したような感じがした。
「いや、だって秋穂は俺のこと嫌いだろ?だったら普通他の学校いくだろ。でも推薦試験受けるほどって……」
「秋穂が夏希を嫌ってる?どうしてそう思うんだ?」
「いや、だって……あきらかに俺を避けてるだろ?」
本当なら一年前に聞いていた疑問。
しかし聞こうと思っても聞けなかった。怖かった。俺が何をしたか知りたくなかった。
「………まぁいいや。」
「え?何が?」
「いや、今の質問なしな。話せるようになったら話してくれりゃいいし……」
「夏希………」
「…ごっそさん。美味かったぁ。さてと、ゲームでもやるかなぁ」
そう言うと俺は自室の二階へと上がる。
その道中に何かに引っかかり盛大に転んでしまう。
「いてて……なんだこれ?」
多分秋穂のものだろう。
リュックサックがトイレの前に置かれていた。
その時だった。
トイレの流れる音がした後ドアが開く。
いや、そりゃ誰かが入っていればドアは開け閉めされるけど俺はこの光景を長年見てないから新鮮であった。
そこから出てきたのは俺の妹の音巻秋穂であった。
「…よ、よお……」
「……ひっ………」
下から見上げる兄を見て涙目になっていた秋穂は俺の持っていたリュックサックを奪い取り自分の部屋と駆け込む。
「………感じ悪っ……」
……なんで俺がこんな気持ちにならなきゃいけないんだよ。
最近秋穂と会わずに安堵している自分がいる。今も感じたが今のあいつになんて声をかけていいのか分からないのだ。
「まぁ今に始まったことじゃないし良いけど……。」
ゆっくりと立ち上がり秋穂の入った部屋の隣、つまり俺は俺の部屋へと戻る。
「……よーし、明日はバイト休みだし気楽に詰みゲーでもやるか」
そう言いながらベッドにダイブした。
ダイブしたまま布団の中に吸い込まれていった。たぶん母さんが布団を干してくれてたんだろうか、フワフワして気持ちいい。少しだけ寝てしまおう。
そんなことを考えているうちに寝落ちてしまっていた。
何時間か経ったのだろうか。先程まで明るかった外がすっかり暗くなっていた。何時なのか確認しようと携帯へと手を伸ばす。
しかしその途中でなにやら違和感を感じた。
「……んっ……あっ……っ!」
「───っ!?」
な、何だ!?
ってか今の声誰!?
いきなり聞こえたその喘ぎ声みたいなものが聞こえてきた瞬間に全身がぞくっとした感覚を覚えた。
俺の部屋に女の子の声がするなんてありえない!!まさかーっ!!?
お、俺の幻聴だっていうのか!?
そこまで欲求不満になっているというのか俺!!それともこれは夢なのか!!?
「……だ、ダメ………なのに……」
「え?」
しかし何者かが俺の服を引っ張って現実へと戻される。
声を殺しながら大きく息をしているそいつは時折甘い声を出しながら顔を埋めてくる。
吐息が首にかかる度に身体が反応してしまう。
しかし何が起きてるか分からず動かなかった。
「……ごめんね……。我慢できなくて……」
そういうと彼女は涙を流しながらこう言った。
「……お兄ちゃん………」
瞬間、動かなかった身体が勝手に動いた。
ばっ!と布団を剥ぎ取る。
そこに現れたのは下着姿の秋穂であった。
「……ふぇ……?」
「…秋……穂……っ?」
「…お兄ちゃん……?」
「……どうしてこんなことを……?」
信じられなかった。
今まで俺にだけは関わろうとしなかった妹だ。何故こんなことをしたのかが分からない。
「…………おい?聞いてるか?」
質問の意図が分からないのか秋穂はきょとんとした顔をしている。
「……え?なんで私こんな格好を……!?まさか………」
「はぁ?」
じとっとこちらを見てくる秋穂は顔を真っ赤にして布団で身体を隠す。
「お兄ちゃんの……えっち……」
いやいやいやいやっ!
いやいやまてまて!!
なんで俺が加害者側なの!?完全に逆夜這いだと思いますが!?
「ってかなんでお前が俺の部屋に夜這いに来てるんだよ!!」
「よば……っ!?何言ってるの!!秋穂がそんなことするわけないじゃ……」
その時辺りを見渡して俺の部屋とわかった瞬間に口ごもる。
「もしかしてまた勝手に………」
そういうと俺の布団を持ったまま部屋を出ていった。たぶん自分の部屋に戻ったのだろう。
「……俺の布団……」
っていうか数ヶ月ぶりの兄妹の会話がこれかよ……。
なんか久しぶりだな。
まるでさっきトイレですれ違った秋穂と別人だったな。
というか今の秋穂は以前から知ってる秋穂だと感じた。
その数十分後、俺は考え事をしていた。
さてどうしたものか……。
まだ三月の寒さの残る夜。
さすがに布団なしで過ごすのは堪える。
かといって今秋穂の部屋に行くと本当に変態認定されそうだしあまり気が進まない。
たしかに部屋にエアコンはあるのだが暖房を付けようにもリモコンが見つからない。
ベッドの上に置いてたことから考えると秋穂が持っていった布団に絡まって今あるのは妹の部屋。
みんながいいたいことはわかってる。
本体のボタンを使えばいい……だろ?
全然反応してくれないんだよ。
「…………しょうがない……か。」
覚悟を決めて秋穂から取り返す他ない。
「そうだよ!妹に話しかけるのに何の問題があるんだ!!うん!」
よし!今すぐ行こう!
早速今の気持ちを忘れないようにと部屋を出ようとした瞬間ドアが急に開き小指を思いっきりぶつける。
「───っ!!!!」
「ど、どうしたの………?」
痛みで何も言えなかった。




