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黒髪に秘めたスクレ=ヴェリッタ  作者: 望月 幸
最終章【みんながいた国】
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七話【シゾーの遺志】

挿絵(By みてみん)

 ようやく泣き終えたロズは、スクレに訊かなければならないことがあった。


「俺が第四の型を手に入れる前に、師匠は俺を始末することができたはずだ。どうして俺は無事だったんだ?」


 師匠マグテスの殺気は本物だった。ヌエを破壊され、少なくとも一分間は無防備になっていた自分が生きていたのは奇妙だった。

 ロズの問いに対し、スクレは思いがけない答えを告げた。


「結果的にですが……シゾーが助けてくれたんです」


 そう言って歩き出すので後を追う。

 すると木陰に小さな人影が見えた。言うまでもなくシゾーだったが、体がバラバラに分解され、もはや虫の息だった。

 虚ろな目がロズの顔を認めると、ひきつったような笑みを見せた。


「何だ……生きてやがったのか」

「残念だったな。しかし、スクレが言うにはお前が助けてくれたらしいじゃないか。どういう風の吹き回しだ?」

「それなんだよな、くそっ……我ながら情けない最期で腹が立つ……」


 このままではロクに話もしてくれないな。そう思ったが、予想に反してシゾーはロズが気絶していたときのことを話してくれた。


 シゾーの元々の目論見は「マグテスがロズを殺す」ことだった。しかし予想以上のマグテスの強さに「こいつを優先して倒さなければならない」と考えを改めた。

 そしてヌエが破壊されたことでロズが気絶したとき、シゾーは背後からマグテスに襲い掛かった。

 完璧な奇襲だったが、それでもマグテスの義手は自動的にシゾーを撃退した。先手を取られたシゾーは持ち前の身軽さで呪剣グリジャグル炎剣ヴォルナールを突き立てる隙をうかがったが、そんなものは存在せず、逆に切り刻まれる結果となった。


「わかったか、クソ装者。お前は自分の力で勝ったつもりだったろうが、実際は俺がいなきゃ負けてたんだよ。

 しかし、しくったな……ほっときゃあの爺さんも勝手に死ぬなんて、無駄骨じゃねえか……ハハ……」


 乾いた笑い声を上げるシゾーに、ロズは頭を下げた。


「ありがとう」

「はあっ?」

「お前が手を出してくれたおかげで、俺は本当の自分を受け入れ、師匠に成長した姿を見せることができた。お前のことは嫌いだが、感謝はしている」


 もう一度深く頭を下げると、シゾーは醜悪な表情を変えた。彼の目はどこか遠くを見ていた。


「お前はいいよな……尊敬する人に認めてもらえて。

 僕にだって、尊敬する人がいた。ビブリアじゃ大犯罪者扱いだけど、あの人は誰よりもこの世界の未来を考えていた。あの人がビブリアに攻め込んだとき、僕も力になりたかったけれど、まだ幼すぎたから……。そして、仲間は誰もいなくなっちまった。あんなことになるなら、僕も一緒に散ってしまいたかった」


 シゾーの視線が急に動くのでその先を見ると、彼のズボンのポケットに数本のスピンが入っていた。


「クソ装者……こんな不幸な白本のために、一つ頼まれてくれないか?」

「……何だ?」

「あの栞を使えば、俺の本拠地……繭の国(コクーン)に行くことができる。そこに一人の女の子がいるから、僕が死んだと伝えろ」

「それだけか?」

「ああ、それだけだ。後のことは好きにしろ」


 言われたとおりに栞を回収すると、遠くから足音が近づいてくるのが聞こえてきた。激しい戦闘の音を聞きつけて、不審に思った誰かが様子を見に来たのかもしれない。


「ほら、さっさと行けよ。言っておくが、僕はあの爺さん以外にもお前らが殺人鬼だと言いふらしてあるんだ。もっとも、今のお前ならビブリアの住民を皆殺しにできるだろうがな」

「誰がそんなことするもんか。とにかく行くぞ、スクレ」

「はい……」


 彼女の手を引き、混沌カオスの炎へと戻る。この場に留まっていれば言い逃れは難しいし、シゾーの遺志を無駄にしたくないとも思っていた。


「じゃあな、シゾー。冥福を祈ってやるよ」


 最後に憎まれ口を叩いてやったが、彼は何も言い返さなかった。




 スクレと共に降り立った“繭の国“は物寂しい国だった。ぼんやりと発光するクリーム色の空に、建物が数軒しか建てられないような狭い土地。その土地の半分以上は墓標が立ち並び、寂れた居城が一つ建っているだけだった。


「シゾーはこんなところに住んでたのか」

「問題の女の子は、あの建物にいるみたいですね。気配を感じます」


 歩きながら、ロズは「この世界はもう寿命だな」と感じ取っていた。

 繭の国はビブリア同様、一定の空間に大地が浮かんでいる構造になっているらしい。空に浮かぶ雲のようなものだ。

 ガラガラと、繭の国の大地が崩れ落ちる音が時折聞こえる。ビブリアはネイサの力で維持されているが、この国に管理者と呼べる者はいないと見ていい。あと数日で跡形もなく消えるだろうと予想した。


「じゃあ開けるぞ。一応用心しておけ」

「はい」


 居城の扉を開けると同時に、目の前に白い肌の少女が立っているのが見えた。


「おかえりなさい……?」


 抑揚の無い声でそう言った後、少女は目をパチパチさせた。


「……じゃなくて、いらっしゃいませ? あれ、何て言えばいいんだろう?」


 混乱して固まっている少女にスクレが優しく話しかけた。


「こんにちは。あたしはスクレで、こっちの目つきが悪いのはロズ。あなたのお名前は?」

「お名前?」


 少女はパッと表情を明るくした。


「ニーニャはニーニャ!」

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