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黒髪に秘めたスクレ=ヴェリッタ  作者: 望月 幸
最終章【みんながいた国】
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二話【弟子と師匠1】

挿絵(By みてみん)

「処分って、そんな……師匠。俺を物みたいに言わないでくださいよ……」


 愕然とするロズ。愛する師匠に剣と殺意を向けられる、それだけで自分の命を否定されている気分だった。


「――無抵抗ならそれで構いません。すぐに終わらせてあげますよ」


 言い終えるや否や、マグテスはまっすぐに跳びながら切っ先を突き出した。


「くそっ!」


 ロズは咄嗟にヌエを第一の型“猿の顎”に戻し、レイピアによる突きを寸でのところで受け止めた。


「さすがロズ君。良い反応です」

「師匠! やめてください!」

「そうはいかないのですよ!」


 攻撃する意志が無いロズを相手に、構わずマグテスは突きを出し続ける。

 ロズは困惑し続けていた。マグテスとは何度も手合わせしているが、真剣を使われるのはこれが初めてだった。加えて隙を常にうかがい、時に隙を作り出す細かなステップも初めて見るものだった。

 ロズは自身の強さが師匠を超えたと思っていたが、少なくとも技術の面では劣っていると痛感した。

 一つ、また一つと切創が増えていくごとに死が迫ってくる寒気に襲われる。


「師匠、すみません!」


 とうとうロズが反撃を始めた。ヌエを振り回すと、マグテスは一旦距離を取って様子を見る。

 ロズは技術でマグテスに劣るが、単純な身体能力は大きく勝っている。対してマグテスは高齢のうえに隻腕。得物のレイピアもヌエの一撃を受け止められるほどの強度は無い。


「行きます、師匠!」


 ロズは距離を詰めながら大きく振りかぶり、大木すらなぎ倒す勢いでヌエの横薙ぎを繰り出す。

「隙が大きすぎますよ」そんな表情でマグテスはかがんで難なくかわし、胴体に刃を突き出す。

 体勢を崩したロズの胸を刃がかすめたが、それは想定内のことだった。


「オラァ!」


 空振りの勢いそのままにロズは一回転し、二度目の横薙ぎを繰り出した。


「くっ!?」


 マグテスは体をひねって直撃を裂けたが、突き出したばかりの右手は間に合わなかった。ヌエはレイピアを手から弾き飛ばすと同時に刃を折り、完全に使い物にならなくした。

 無防備になったマグテスをヌエで突き、地面に倒れ込んだ彼の胸をそのまま押さえつけた。


「肉を切らして骨を断つですよ、師匠。もっとも、俺は骨を断たれても立ち上がってみせますが」

「……なるほど。やはり成長しましたね、ロズ君。見慣れない武器と動きを前に、こうも冷静に対処して見せるとは」


 ここでようやくスクレが到着した。目の前の光景に目を白黒させていたが、近くにシゾーが潜んでいる可能性があると告げると、ロズの手の届くところまで近寄った。


「ロズ君……」おもむろにマグテスが口を開く。「君の過去を話しておきたい」

「えっ?」ロズは眉根を寄せる。「いきなり何言い出すんですか」

「いつか伝えたいと思っていましたが、今しかないと判断しましてね。できれば二人きりで伝えたかったですが」


 ロズは背後を一瞥する。


「スクレのことは気にしません。むしろ、俺の主人に俺の過去を知ってもらうのは悪いことじゃないはずです」

「そうですか。それならお伝えしましょう。君が生まれたときのことを……」


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