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【繭の国】

挿絵(By みてみん)

 あるところに小さな世界があった。人間と本の中間の生物“白本”と、その白本を守るために存在する“装者”が暮らすビブリア。

 その近く、次元という壁を隔ててさらに小さい世界があった。その世界は繭に包まれた世界で、人間が百人も住めないほど小さな土地があるだけ。

 ここはビブリア史上最悪の犯罪者、アンサラーが作り上げた世界だ。アンサラーはビブリアの女王であるネイサに戦いを挑み、敗北して繭の国を作り、身を隠した。

 そして再び発起したアンサラーはビブリアを陥落寸前に追い込んだが、ビブリアの守護者として覚悟を決めたシックザールに敗北。繭の国まで追いかけてきたシックザールとの対話の末、静かな眠りについた。

 こうして、繭の国は小さな土地とアンサラーの居城を残し、誰もいなくなった。

 

 そのはずだった。

 しかし居城には、後にシゾーと呼ばれ恐れられる一人の少年が残されていた。




 ビブリアには混沌カオスの炎と呼ばれる白い炎がある。ビブリアと異世界とをつなぐ扉の役割を果たしているが、これと同じものが繭の国にもある。しかし混沌の炎の薪――つまりは白本と装者の遺体――が少ないため、規模は遥かに小さい。あちらは天を焦がすほどの巨大な炎だが、こちらは人間の大人一人をようやく覆える程度だった。

 パチパチと爆ぜる繭の国の炎から、小さな人影が現れた。少年の顔は怒りに歪み、千切れた片腕をもう片方の手で握っている。


「あのロズとかいう装者、どうなってやがるんだ……クソッ!」


 シゾーは悪態をつきながら居城に歩を進める。大した痛みではないが、思わぬ反撃を受けたことに焦りと苛立ちを湧き上がらせていた。

 エントランスを抜け、こぢんまりとした自分の部屋に入る。かつてアンサラーに与えられた部屋を今も愛用しており、それ以外の部屋は掃除こそすれ、一部を除いて使用することはなかった。


「腕を治すのは……後でいいか。とにかく今回は疲れた……」


 上着を脱ぎ捨てて、シーツの整ったベッドに倒れ込む。途端に強烈な眠気が込み上げてきた。

 憎き装者と、偽者とはいえ白本との生活はシゾーの神経を常に逆撫でし続けた。加えて白本スクレを仕留めることはできなかったため、おそらく自分の姿をビブリア中に広められてしまう。また自分の姿を変えて欺かなければならない――その疲れと面倒くささが意識を現実から遠ざける。


 カツン――カツン――


 足音が近づいてくる。

 今や繭の国には二人しか住んでおらず、そのうちの一人がシゾーの自室に来ようとしている。


「毎度毎度、僕が帰ってくるとすぐに寄ってくるな。親鳥にくっつく雛鳥かよ……」


 それにしても眠い。彼女の相手をする余裕なんて無かった。

 目を閉じて数回呼吸をしたころには、シゾーは眠りについていた。


 白本シゾーも人間同様夢を見る。最も多く見る夢は、アンサラーをはじめとしたかつての仲間たちが命を落とす場面。二番目に見る夢は、彼らを破滅に追いやった白本と装者たちに復讐する場面。

 しかし今回見た夢は“彼女”との出会いだった。

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