【旅の終わり】
どうしてこうなってしまったんだろう。
後ろからスクレの細い首に指をかけ、他人事のようにそんなことを考えていた。
確かに彼女の味方であると誓ったはずだ。彼女を守ると心に決めたはずだ。
だったら、この両手は何なのか?
いや、理由はわかっている。ただ認めたくないだけだ。
だって、そうだろう? 文字通り、俺の両手に一つの世界の命運が託されてしまったんだから。
なんてありふれた展開。
“世界を守るか。愛する人を守るか”創作の中で何度も見てきた展開に自分が放り込まれてしまうだなんて、今の今まで思いもしなかった。
「いいよ、あたしを殺して。あなたの手にかかるなら、それでいい」
スクレの声が突き刺さる。自分はこんなに震えているというのに、彼女の声は凛としている。覚悟を決めた声だ。
だけど彼女の表情を覗き見ることすらできない。これ以上感情が揺さぶられたら、自分というものがバラバラに砕け散ってしまいそうだから。
「どうしたの? あたしのことなら、気にしなくていいのよ」
やめてくれ。もう、これ以上しゃべらないでくれ。
頭の中に天秤が浮かぶ。片方にはスクレが、もう片方には無数の人々が乗っている。
二つは上下に揺れながらも釣り合っている。それが揺れて、揺れて、揺れて――皿の上からこぼれ落ちてしまいそうだ。
「あぐっ」
揺れる心が無意識に指先に力を籠めさせる。数々の敵を葬ってきた指先が、今は彼女の首に食い込み始めている。
なんて細いんだ。世界の命運って、こんなにか細くていいのか?
息苦しさにスクレが咳き込むが、指の力は緩まない。じわじわと彼女の命を締め上げていく。
「ごめん……ごめん……。約束を守れなくて、ごめん……」
遠くで獣の咆哮が聞こえる。それは実在する獣なのか、俺の体に潜む獣なのか。
ここは赤い世界。二人の旅は、ここで終わりを告げる。