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#4「知られたくないものもある」

お久しぶりです。3ヶ月間僕、ニコネコがサボってました。暖猫さんにめっさ怒られると思います。反省します。

 黒猫との出会いから、6時間ほどが過ぎ、時刻は午後5時前である。タンゴは10月の町を疾走していた。


 落ち着いた性格の彼が全力で走っているというのは、珍しい光景だ。それほど、彼は急いでいるということなのだ。早くしなければ、"アレ"が始まってしまう。


「はぁ、はぁ……よし、4時59分!」


 タンゴは息を切らせながら、安堵して呟く。人間の家をガラス越しに覗いたタンゴは、その部屋の中のデジタル時計で時間を確認する。5時までに到着すればいいから、ギリギリセーフだ。


 ただ単に時刻を確かめたかっただけではなく、この家に来ること自体がタンゴの目的だった。先程時計を見た部屋のベランダに飛び移り、ガラス窓を叩く。そして、しばし待つ。




「ん? ……おお、白猫殿!」


 そして、タンゴの姿を見た住人が、嬉しそうに窓を開けた。メガネをかけた、小太りな体型の"がくせい"の男だ。


「今日は遅かったでござるな。本当にギリギリでござったぞ!」


 男にそう言われ、タンゴは侘びを込めて一礼した。よいよい、とタンゴに返答した男は、そのまま部屋の"てれび"に向かい、電源を付けた。それと同時に、時刻は5時を迎える。


「おぉ〜!」


 部屋に飛び入り、タンゴは歓喜の声を上げた。勿論、その声は人間には「にゃ〜」としか聞こえないのだが。


 毎週日曜の、タンゴの趣味。


 それは、"あにめ"鑑賞である。


「うむ、やはりオープニングから名作の雰囲気が溢れ出ているでござるな、『スカーレット・サイン』は!」


 画面に釘付けの男が、頷きながら言う。美しいピアノイントロに続いて、クールなギターの音色と、人気アニソン歌手の力強い歌声。タンゴは歌詞の意味もなんとなく理解している。


 この『スカーレット・サイン』。二年前に半年間の放送で中高生に人気を博した作品であり、ファン待望の第2期が先週から放送開始した。100年に一度登る"紅い月"にまつわるダークなストーリーと、手の込んだバトルの作画が、視聴者のハートをがっちりと掴んでいる。


「おっと忘れていた……」


 男はそう言うと、部屋を出た。四角いテレビには今はCMが流れている。


 階段の下から足音がする。足音は階段を登り、部屋の前で止まる。そして、再びドアが開く。


「ささ、白猫殿」


 男はタンゴの眼前に、小さな鉄皿を置いた。中に注がれた牛乳が、着地の微かな勢いで揺れる。


 タンゴは皿の方へ口をやると、舌で牛乳を舐めとり始めた。誤って鼻に牛乳がかかると、すぐさま白い手で拭き取った。


 そして、『スカーレット・サイン』のAパートが始まる。悪の魔導師に囲まれながら、武器を手に取る金髪ツインテールの少女が映っていた。


 瞬間、タンゴのテンションが跳ね上がる。何を隠そう、この少女__リーナは、タンゴの推しキャラである。


「えらく嬉しそうでござるな、白猫殿」


 そんなタンゴの姿を見て、男が言う。


「拙者、正直ツンデレキャラの良さが分からぬのだがな……」


「えっとね、じゃあ普通の女の子の普段の可愛さを100、デレてる時を150としよう。差は50だね?それで、ツンデレっ子もデレてる時は150だけど、冷たい態度の時は70ぐらいまで下がる。そうなると差が80になる。ほら明らかに普通の子よりかわいい。これより上がないくらい可愛い。まあ悪い人がたまに良いことすると凄く良い人っぽく見えるのと一緒だよね」


 などと、タンゴはとてつもない早口で見解を述べる。


「……??」


 もちろん、男には猫語は通じていないのだが。それにしてもさぞ不気味だっただろう。急に何十回も早口でにゃーにゃー鳴きだしたのだから。


 男の怪訝な視線で全てを察したタンゴは、それからはもう黙って画面に目を向けるのであった。




「……あ、おかえり……」


「ただいま〜」


 住処に戻ると、留守番していたユキがタンゴに顔を向けた。さっきまで寝ていたらしくまだ寝ぼけていて、だらしなく仰向きになってお腹を見せている。


「……!!」


 そのことにようやく気がついたのか、ユキは急速に頰を赤らめて腹を隠した。


「残念。もうタンゴ'sアイにしっかり焼き付いてまーす」


「う、うる、うるさい!」


「ん゛__いだっ!?」


 顔を赤くしながら、ユキは怒りの形相でタンゴの頭に噛み付いた。鋭く突き刺さる痛みを受け止めながら、随分力が強くなったものだと感心するタンゴ。


 だが、だからって暴力はやめてほしい。タンゴは噛み付くユキを前足で剥がすと、ほっと一息ついて座り込んだ。


「……それで、タンゴどこ行ってたの?7日に一回、いつも必ずこのぐらいの時間に帰ってくるよね。あたしのことは毎回置いてくし」


「えっ……!?」


 今度はタンゴの頬が微かに赤くなる。言えるわけがないだろう、女の子がたくさん登場する"あにめ"を毎週楽しみにしていて、しかもツンデレの妹がいる自分がツンデレっ子を推しているなどと。ドン引きされるだろう、そうなるとタンゴも普通に傷つく。


「まあ、7日に一回なら良いんだけど……」


 たどたどしいタンゴをよそに、ユキが囁くように言う。


「その、ホントに7日に一回だけにしなさいよ?何日も帰ってこなくなったりしたら承知しないんだから」


「寂しいから?」


「さっ……ちが、違う!暇!暇になるから!」


「うんうん……だいじょーぶ」


 再び顔を赤くするユキを見て、タンゴは微笑みながら頷いた。


 暖かい彼等の居場所に、夜が訪れる。




「いたな」


「うん!もう行っちゃおうよ!」


 その夜。塀の上を歩く、小さな陰が二つ。合わせて四つの目が、怪しげに光る。冷たい夜風が、その歩みをさらに不気味に彩っていた。


「待った__今日は月が眩しい。オレらが動くのは目一杯の曇り空の日だけだ」


「んー、わかった」


「まあ、そんなに遅くはならねえさ……




『雪泥棒』実行の日はな」



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