サイテー男、悩む
見合いの日から数日後。俺はホテルのレストランに居た。
見合い相手、山川 悠希は、スラリとした体、クセがなく真っ直ぐな茶髪に、少し切れ長だが大きめの瞳が印象的で、白く滑らかそうな肌のおかげか実年齢より2〜3歳は若く見える、美人タイプ。
そんな彼女と、再び出会っていた。
あの日、悠希に断っても良いと言われたのは、一瞬だけ出来た2人の時間だった。
まさか、そんなことを言われると思っていなかったからか、その時は断る気があることを言えなかった。
そして、母が帰り際に
「次はご飯でも食べながらお2人でゆっくりお話されてはいかがですか?」
と悠希に提案した時、俺の顔を見て、断るなら今ですよ、と言われた気がしたのが無性にイヤで…
俺は「そうですね。もし悠希さんが嫌でなければ是非」と答えていた。
…悠希を、困らせたいと思った。
§
「お酒は飲めるんですか?」
彼女の見た目にあった、落ち着いた声音は、レストランの少し謙遜とした空間ではより響いた。
「はい。結構飲む方ですね。なかなか酔わないタイプなんで。
悠希さんは?」
普段通りに大きな猫を被って、人によっては見惚れる場合もある笑顔で答えたら
「私はお酒弱いですね。ただ、全く飲めないわけではないので、1杯目はアルコールにします」
ふふ、と淀みなく微笑み返された。
(なんで、この間のお見合いの話には触れないんだろう?)
(なんで、俺がお見合いをあまりよく思っていないと知ってたんだろう?)
聞いてみたいことはあるのに、どう聞いていいか分からずにどうでもいい話をする。
モヤモヤしながらも食事は進み、食べる姿勢、マナー、全てが今までに出会った女性の中で誰よりも上品だと気づいた。
会話が途切れること無く、でもプライベートな質問はされないので、途中からは話をすることも楽しいと感じた。
母がお見合いを勧めただけの理由がある女性だった。
結婚願望はあるのだろうか?
しかし、断って下さいと言うからには、俺と結婚したいとは思っていないはずだよな?