宝探し
種が開いて見せた紙には『まちばり』と記されていた。種は会話ができないので紙を指さし首をかしげている。紙にはその他のヒントなどもなく、探し物がありそうな場所に行け、ということだろう。
『まちばり』というと裁縫に使われる針のことか? と疑問に思ったが会話ができないため、そうとしか考えられなかった。そうなると家庭科室なんかに行けばありそうなものだが、自分たちは地図も何ももらっていない。校内を歩き回って家庭科室を探すことから宝探し、ということらしい。ほかのみんなも考えは同じようで無言の中歩き始めた。
既にほかの班も行動しているらしく目の前には目まぐるしく新入生たちが歩き回っていた。しかしそこには不自然な静寂がありなんとも不気味に見えた。
しばらく歩き回るとさすがに疲れてきた。ひとつの部屋を探すだけとは言え、自由な校風を掲げるこの学校には部活動なども多くそれに伴って部室や部屋の数も多い。広い校内をしらみつぶしにするには自分たちの班は人数が少なすぎる。手分けをするにも会話ができないので分担もまともに伝えられない。班が少人数だと一人ずつ別行動するほうが会話するリスクも減っていいと思ったのだが……どう伝えたものか悩んでいた。
そう考えながらも歩き続けていると、目の前で話している生徒に出会った。ルールを聞いてなかったわけではないはずだが、どうして気にせず話しているのだろうか。不思議そうに見つめていると話している二人の違いに気が付いた。片方の新入生は、他の新入生にないバッジを二の腕の辺りにつけている。どうやらあれが説明で言われていたルール違反者を示すバッジだということはすぐに分かった。
しばらく見ているとこちらの視線に気づいた新入生が近づいてきた。バッジを確認すると彼はつけておらず、どうにも不思議だった。会話は禁止だったはず、と考えていたら近づいてきた生徒は唐突に自分たちに話し始めた。
「よぉ! 順調か?」
気さくに話す彼が何を考えているかわからず自分たちは皆自然に疑いの目で彼を見ていた。
「大丈夫大丈夫! 会話禁止ってのを気にしてるんだろ? 俺もさっきあいつから聞いたんだけど、班のメンバーじゃなかったら違反じゃないらしい。現に俺もあいつと話しながらここまで来たけど先生にバッジはつけられなかったぜ?」
それを聞いてまだ疑いはあったが、確かに先生は班内での会話は禁止、と言っていたがその他の生徒との会話は禁止していなかった。もしそれが違反じゃないなら班内に意見を伝えるのも簡単なことだ。
「じゃあ、班外のほかの新入生とは問題なく話せるってことなのかな?」
最初に彼に向けて口を開いたのは草だった。自分は意外に思ったが黙っていることより誰かと話しているほうが草は安心だったのだろう。
「わかってもらえたか! ほら、あそこに先生が見張ってるけどこっちは気にもしてないだろう? あいつはうっかりやらかしてバッジもらったみたいだったけどな」
彼が示す新入生はもう自分の班の宝を探しに戻ったようでそこにはいなかった。それを確認した彼は自分たちと一緒に行くと申し出てきた。断ってもついてくる雰囲気の中来るなとは言えなかった。彼は城山というらしく、草が進んで会話していた。
しばらく城山と一緒に家庭科室を探すと城山はなぜ分担して探さないのかと質問してきた。今まで分担の打ち合わせを行えなかったことを草が伝えると、得意げに自分が分担しようと言ってきた。城山の表情にイラついたが、自分たちもそろそろこのままだと限界を感じていたところでその提案に乗ることにした。
一人ずつ別々の場所を見回りに行くことになったが、草は城山と気があったようで二人で向かうことになった。ほかの班の城山となら自分たちが連帯責任で違反になる危険もなかったためほかの者に異論はなかった。