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素晴らしきかな、我等が高校生活。  作者: 鈴木のメモ帳さん
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歓迎会

 体育館に入ると、もう既にたくさん生徒が来ていた。

登校したものから並べられたパイプ椅子に腰かけ何かが始まるのを待っているようだった。

「座席表ここにあるわよ」

種に声をかけられそちらに目をやるとホワイトボードにクラスと席が張り出してあった。

「種は僕と同じクラスで、草は黒と同じクラスだね」

川が自分たちのクラスを確認して教えてくれた。

後ろに後から来た生徒が並んでいるのを見て、また後で、と声をかけた川が種を連れて席に向かった。

「んじゃ、行くか」

自分も草を連れて席に向かった。

五十音ということもあり草は自分の隣の席だった。心底安心そうな顔をする草を見て、隣が知らないやつばっかりだったらどうなっていたんだろうかと不安になった。

見渡すと隣のクラスの座席はかろうじて見える程度だった。しかし自分と同じことを考えていたのだろう川が立ち上がり周りを見渡していたのですぐに目に入った。川もこちらに気づき、笑顔で手を振る姿に絵になる光景だと考えながら、呆れ顔で手を振り返した。


 その後おとなしく席に着く川を見守った後、隣で一生懸命に話す草の話を聞きながら待つと、書面のステージに先生と思われる男性が立ち話し始めた。

「新入生の皆さん、おはようございます。皆さんの学年の主任を務めます、樋口といいます」

やっと始まったとざわつく体育館内を気にせずに樋口先生は話し続けた。

「今日は今から新入生歓迎会として、レクリエーションに参加していただきます。幸い今日は新入生全員が登校してくれたようで欠席者はないとの報告があります。これから私からレクリエーションについて説明させていただきます」

更にざわめき何が始まるのかと期待する新入生たちの浮足立った感情を先生の次の一言が消し去った。

「先に、聞いておかないとこれからの学校生活は最悪のものだという事実だけは伝えさせていただきます」

急に自分のこれからを左右されることを言い放たれ、浮ついたざわつきも一瞬にして静寂に飲み込まれた。

周りの生徒は不安な顔を浮かべるもの、近くの生徒と相談する様子のものが増えたが、先ほどまでの元気を保つ生徒は自分には見えなかった。

「では、説明させていただきます。まずこの説明の後、自由に班を作っていただきます。今までの間に仲良くなった人同士でも、昔なじみの方同士でも、初めて話すような方でも構いません。思い思いに班を作っていただいた後にゲームを開始します。ゲームは学校全体を使った宝探しとなります。班の人数は多いほど探せる範囲が広がるのでいいかと思います。班ができたと確認したのちに各班に一枚ずつ宝物が何かを示す紙を配布します。ここまでは理解できましたか?」

何も難しいことは行っていないはずだが何か引っかかるような気がした。今まで式が始まるのが遅かったのは仲良くなる時間を取るためだと考えても、班の数も決めずに宝探し? 宝の数より班が多くなったらどうするんだ? 探すものが被って早い者勝ちになるのか? 疑問は尽きなかったが隣の草の声で我に返った。

「黒くん一緒に班になってくれるよね? よくわからないんだけどみんな一緒でいいんだよね?」

不安そうに尋ねる草を見て、何も自分だけで考え込む必要はない。後で川たちとも相談しようと考えた。

またざわついた声が静まったときに、先生は話をつづけた。

「とにかく昼食の時間までは宝探しのみですのでその他の心配はありません。班ができたら代表を決めていただき決まった班から手を挙げていただけば紙を配布します。全部の班に紙が配布されたのち開始の合図をこちらからさせていただきます。では、班を作って指示通りに行動してください。時間は30分間とさせていただきます」


 先生の話の後一息おいてから生徒が一斉に動き始めた。

その波にのまれてはぐれないよう草の手を引き川と種のもとへ向かった。二人もこっちを探していたらしく、すぐに合流することができた。とにかくはぐれないよう手をつないで生徒たちの波の外に出た。

「班はこれでいいね、紙もらおうか」

息を切らしながら川が手を上げようとするのを種が静止した。

「先生が言ってたでしょ? 人数は多いほうがいい、ってもう少し人数集めたほうがいいんじゃないの?」

確かにその通りだったが自分はまだなにかがひっかかっている気がした。このまま先生に従っていてもいいのか? 先生の言うことは全部真実なのか? 不安が残る部分は取り除きたい。場合によっては大人数が裏目に出る可能性だってある。

「いや、このままにしよう。代表は種でいいな?」

強引に話を進めても種が納得しないのはわかっていたが自分にも根拠といえるほどの理由がなかった。

「話聞いてたの? そんなの納得できない!」

種が納得できるような説得をできない自分と川を見ていた草が間に入って話し始めた。

「でも、知らない人班に入れてもうまくいかないかもしれないよ? それに私はちょっと怖いかな……」

草の話も聞き、不満なのは自分だけだと判断した種は渋々納得し、手を挙げて紙を受け取った。

紙には合図と一緒に中を見ること、と書かれていた。素直に従っておくことにした自分たちはまた、先生が話し始めるのを待った。

その間に川におかしく思ったことはないか尋ねると川も宝の数とこのレクリエーションを行う理由がわからないままだ、と告げてきた。二人で思案しても答えは出ず、答えを求めていると先生が話し始めた。


「30分経ったので終了になります。紙を受け取っていない班の代表は挙手してください」

それを聞いたいくつかの班から手が上がり紙を受け取っていた。他の班は見た限り人数は多かった。少人数の班もあったがそれでもできた班は20ほどだった。

「それでは紙の中身を確認していただく前に重要なルールについて話します」

先生の言葉にまたざわつき始めた。ルールは先に話したもので全部ではなかったのか、という声が聞こえた。不満に思うものもいれば、班を作る前からずっと不安な顔をした生徒もいた。その中先生はさらに話をつづけた。

「たった一つだけです。班の人との会話は禁止とさせてもらいます。班内での会話をせずに宝探しをしていただきます。班内での会話があった場合、見回りの先生方に目印になるようにバッジをつけてもらってください。班内での会話は連帯責任とさせていただきます」

不満の声を上げる中、自分だけは不安が的中し、先生の話の信用性を疑っていた。

班内での会話、つまりコミュニケーションが禁止されると大人数のグループは統率が取れない。多くいるメンバーの中に誰の目もいかなくなったとき、少しなら、と話してしまうかもしれない。そのルールを犯したものへのペナルティも話されていないため何があるかわからない。

自分たちは少人数で常に一緒に行動し、ルールを犯さないように打ち合わせをした。


「それでは中に書かれた宝を確認後、自由に探索してください」

先生の合図とともに、不安だらけのレクリエーションは開始された。



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