登校日
「始業式の前日から新入生は登校するってなんかおかしくね?」
学校に向かう黒崎と目的地を同じとする同級生の声が耳に入る。
新学期から高校生になる黒崎は高校の案内に従い、始業式前日に在校生に比べて一日早い登校をしていた。
学校の案内も済み、周りは始業式を待つばかりというのに、自分は面倒な学校に進んだものだと考えていた。
しかし、その校風はとても自由なもので、とても気に入っていた。
表立った問題もなく、学力も平均的。その先就職するにも学校が丁寧に対応してくれるとのこともあり人気の高い高校だった。
「おはよう、黒」
後ろから声をかけられたが聞きなれた声ですぐに誰かわかった。
「おう、おはよー。川」
同じ中学からこの高校に入った川瀬だった。
昔から仲が良く同じ高校に入ると聞いたときは心底嬉しく思った。頭もよくてルックスもいい。自分にはもったいないほどできた友人だった。
「明日が始業式なんだよね? なんかイベントでもあるのかな?」
川が首をかしげながら自分に尋ねる。
「知らねーよ。川が知らないようなこと俺が知るはずないだろ」
川は自分の言葉を肯定しつつ笑って見せた。
イベントといえばそうなのかもしれない。案内で説明しきれなかったものを始業式前に事前に伝えておくようなことか。と適当に考えていた。
川と二人で学校に向けて歩いていると見覚えのある後姿が目に入った。
「あ、あれ種と草じゃない?」
川が指さすのは自分の目に入った二人だった。
「おはよう、種、草」
川が後ろから声をかけると振り返る二人は予想通り、同じ中学から進学した種島と草原だった。
「その呼び方、やめるって言ってなかった? 高校生になってまでそれだと恥ずかしいんだけど」
種が強い口調で川に言った。
昔から気が強く4人で集まるとみんなをまとめてくれるのが種だった。男の自分から見ても男らしいが女で、根はみんなのことをよく考えるやさしいやつだ。
「別にいいじゃん、仲良しって感じで。ね?草」
「そうだね、別にいいんじゃないかな?」
草はいつもほかのみんなの陰に隠れるようなおとなしい性格で、目立たないが草の描く絵だけは誰にも負けてない。みんながそういっても自分では否定するからあまり褒めないようにしているが……
「そんなこと言ったって…… 黒は? どう思うの?」
「どう思うってお前もそう呼んでるじゃん。いいんじゃないの」
自分に反論され、機嫌の悪そうな顔をする種はさらに語気を強めて言った。
「黒はいいよ! 私なんて種だからね! どうなのよそれ!」
「かわいいと思うよ?」
「かわいいよ種ちゃん」
「かわいいよー。かわいい」
みんなに言われてどうしようもないと観念した種のふくれっ面を見て、中学の時と同じように笑いながら歩いた。
しばらくくだらない話をしながら歩くと、学校の校門が見えてきた。
「集合は体育館だよね。行こうか」
川が確認してみんなに告げるとまた一緒に歩きだした。