プロローグ
大佐オリジナル異世界系ファンタジー小説初投稿
俺は虚ろな目で”何か”を見ていた。息の出来ない苦痛と水中と言う無重力に身を委ねながら水面から遠ざかっていく。
現在、俺……十六夜ソーマは異世界のとある王国付近の湖に沈みつつある。腹からは夥しい量の血が出ており、意識は今にでも深い闇の底へ沈んでしまいそうだ。伸ばした手は虚しく水を掻いており、動く度に激しい苦痛がやってくる。
何故こんな事に……心の中で呟いた。
本来この世界に居るはずがない俺がこうなった事の全ては2週間前から始まった。
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この世界に居る社会人及び学生は思うだろう……月曜日は憂鬱だ。と。
それは、ソーマにも例外なく同様の気持ちで、朝起て早々死んだ魚のような目をしつつ着替えていた。
高校1年であるソーマはさっと着替えを済ませ、スマホを開き、ハマっているソシャゲのガチャに……見事爆死して四つん這いになって少しの間、萎えタイムを発動する。
ソーマは、朝食という名の一本○足バーを口に家を飛び出た。
本来5時に食べるであろう某アイドルが出てネタとして有名なバーは、ソーマの喉をカラッカラにするだけに留まらず口の中に濃いチョコ味が残る為、ソーマは萎えていた。
徒歩通学のソーマは、歩きながら自販機で飲みものでも買おうかな……等と考えていると太陽の光が反射してか俺の顔に光が入ってきて思わず顔をしかめる。
いつも良く利用している100円均一の自販機の前に”何か”が落ちていた。恐らくその何かが太陽の光を反射させていたのであろう。
ソーマは、目を細めつつ飲み物を買うついでにその”何か”を拾った。
それは、漆黒の指輪だった。黒いリングに血を彷彿させるかの様な小さな宝石が取り付けられている。その宝石は、太陽の光を禍々しく反射していた。
(落し物……なのか?っと時間がやばいな)
とりあえずその指輪をポケットの中に突っ込み、自販機でレ〇ドブルを破格の100円で買い、足早に学校へ向かった。
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遅刻のタイムリミットまで残り10秒を残して駆け込みセーフを果たす事に成功したソーマは、周りの「またギリかよ」みたいな視線が多数レーザーサイトの如く当てられるが……スルーすることに成功した。
自分の席へ座ろうとした刹那、嫌な予感がよぎって俺の後ろの席を確認すると、1人のクラスメイトが手を伸ばそうとしていた。
椅子をガタンとさせて驚かす魂胆だったのであろうその女子は、後ろを向いた俺と目が合い「あ……十六夜君おはよ~」と、ぎこちない笑みを浮かべ挨拶をしてきた。
彼女の名は月村有紗〈つきむらありさ〉と言い、この学年でトップクラスの可愛い女子ランキングに君臨する言わば学校のアイドルだ。
それに対し十六夜ソーマという人間は、イケメンとは縁遠く至って普通の男なのだ。
これでお分かりいただけるだろうか……俺はかなりピンチな立場に居るのである。
ソーマは一部の男子からは良いように思われておらず――大半が月村さんのせいなのだが――
月村さんとコミュニケーションをとる度に、昼休憩中や放課後に体育館裏に連行され……後はお察しの通りの制裁と言う名のリンチがソーマに物理的ダメージを与えていた。
そんな現状の中挨拶をされたソーマなのだが、返事をしなければそれで、どの道連行の運命からは逃れられない為、ソーマは苦笑をしつつ挨拶に応じた。
「えっと……お、おはよう月村さん」
月村さんは返事が嬉しかったのか笑みを向けてくるのだが、ソーマは冷や汗が止まらない状態だった。
何故なら、俺が教室へ入ってきた際に感じた殺気のこもった視線がより一層と強くなっているからである。特に一番後ろの席の4人組・・・赤木龍輝・高橋英行・野村雪智・村上敦(あかぎりゅうき・たかはしひでゆき・のむらゆきち・むらかみあつし)は俺を恨めしい表情で見ており、明らかに不機嫌な表情をしている。
(はぁ、今日も体育館行きか……と言うか何で月村さんは俺に優しいのだろうか?)
心の中で1人疑問に思いつつ、この後起こるのであろうソーマへの制裁にため息をつきながら座ると前に居た黒髪ロングの女子がこちらの席に向いて苦笑しながら言った。
「おはよう、十六夜君……大丈夫? 何かあったら言ってね。力になるから」
ソーマの身に起こるであろう事を察したのであろうこのクラスメイトは、芳乃未緒〈よしのみお〉だ。彼女は月村さんの親友であり幼なじみらしい。―――月村さん談――
彼女は幼い頃から父親の英才教育によって、剣道・弓道をやっており現在は、1年にして弓道部エースと剣道部のエースになっている。しかもルックス及び性格も高水準で周りの男子からの告白が、月村さん並にあったとか無かったとか。――これも月村さん談――
そんな彼女はどうやらこちらの事情を把握しているらしく、わざわざ声を掛けてくれたらしい。
「おはよう、芳乃さん。いや、俺は大丈夫だよ……」
ソーマは更に殺気の線が強まったのを察知し、当たり障りの無い返事をして席に着くのと同時に、教室の入り口から担任の神埼亜季先生が入ってきて、一部の生徒が慌て気味に自分の席へと戻る。
「それでは、出欠確認を始めるぞー……来てない奴は挙手」
神埼先生の問いに答える者は誰も居なかった。そもそもあの先生は、何故欠席した人は挙手等とわざととしか思えない出欠確認をするのだろうか。無論その真相を知るものは居ない。
入学して間もない頃、ある1人の勇気ある男子生徒――実はソーマ本人だったりするのだが――が、出欠確認を行ってる際にこう質問した。
「先生、何で居ない人に挙手させようとしているんですか? 何かのネタでやってるんですか」と。
返ってきた返事は先生の無言の笑みで、その表情は「知りたい? なら天に召される覚悟を持って後で職員室に来なさい」と言っていたので、その勇気ある男子は前言撤回をして座ったのである。
それ故にクラスメイトは、そのことについてはスルーしている。
先生は挙手――ある訳がないのだが――が無いのを確認して今日の連絡事項を伝達していく。そして、連絡事項の伝達が終わって少し時間が余ると、先生はやり遂げた感を全開にしてこう言うのだった。
「ふぅ、これで安心して熟睡出来る!」
因みに神埼先生は、女性で、年齢は25歳で、独身である。理由は言わずもがな……
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退屈な授業時間が終わり昼休憩に突入し、ソーマはおもむろにバッグから1本○足バーを2本取り出してそれらを1分程で完食する。別にソーマは偏食家ではないのだが、単に弁当を作る時間が無い――徹夜でFPSやり込んでるせい――のと、買おうと思ってもお金がないのだ。――主に小遣いはラノベやゲームソフトに飛んでいく――
故にソーマは、親が買い溜めているこのバーで朝昼を耐え抜いているのだ。
先ほどの説明から分かる通り、ソーマは筋金入りのゲーマーだ。周りからはオタク等と言われるが、あながち間違いではない。
昼食を終えたソーマは、日課のスマホいじりを開始したのだが……妙に動作が重い。
理由は直ぐに判明した。いつの間にか4G回線から圏外になっていたのだ。
「あれ、おっかしいな。何でこんな街中で圏外なんだよ…?」
ソーマが独り言をぶつくさ言いつつスマホをいじってると、こちらの様子に気づいてかこっちに寄ってきた。
「十六夜君、どうしたの? 何か焦ってるみたいだけど……」
と月村さんが心配そうな眼差しでこちらに寄ってきた。周囲の視線がとても痛いです。
「スマホでも故障したの? まぁ、あんなに使い込んでるからじゃないの?」
と芳乃が半ば呆れつつ言うが周囲の視線で色々と察してくれたのか、一部の男子を軽く睨んでソーマに当てられる視線を払ってくれた。芳乃さんマジかっけぇ……
ソーマは1つの可能性を思いつき2人に尋ねた。
「2人とも、スマホの電波を確認してくれないか?」
直ぐに動いたのは月村さんだった。
「ちょっと待ってね……あれ? 圏外になってる。未緒ちゃんはどう?」
「ええ、私も……でもこんな街中でそんな事って普通ないよね……?」
2人ともソーマの言いたい事を察した様で、神埼先生もスマホを使ってたようで――ゲームをしてた模様――首を傾げている。
何かがおかしい……そう思ったとき、事態は動き始めた。
ソーマの……正確には1人ずつの足元が急に輝き始めたのだ。周りからは無論動揺した声が煩いくらい聞こえてくる。
「わわっ!? え、ちょ、ちょっと何これ?」
「い、十六夜君何なの? これ?」
突然の事で2人も動揺しているみたいだが当のソーマは、足元で輝いている”何か”をじっと見ていた。それはまるで、魔方陣のようだった。
(いやいや、俺に分かるはずがないし。そもそもあり得ないだろ普通……魔方陣とか絶対存在するわけないじゃないか!! そんなファンタジーな事なんて……)
そんなどうでもいいソーマの思考を次の瞬間停止させた。
「指輪の導きに……助けて……」
不意に誰か断片的な女性の声が俺の耳に入った。周りを見るがみんな恐慌しており、そんなワードを口にしそうな人は居なかった。
ソーマは考える事も虚しく、完成したのであろう魔方陣の光に飲み込まれ、視界がホワイトアウトした。
光が収まると、そこには誰も居なかった。謎の光は、ソーマ達の居た1フロアのみで発生し、教師もろとも一瞬で消えた。
この騒動は誘拐事件として扱われたが、手がかりが全く掴めず、警察側もお手上げ状態になった。
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ホワイトアウトして、辺り一面白世界を絶賛体験中のソーマはこんな状況の中、先ほど聞こえた声が気になってしょうがなかった。
あの声は何だったのだろう?そして、これから自分達はどうなってしまうのだろう……そんな不安とほんの少しの期待が俺の中でぐるぐると行き来していた。
出来るだけ更新は3日以内に行う予定です。ネタ要素が多い為、そこの所は作者の趣味です。ご了承下さい。