第四十一話 早速新しいスキルを試してみよう
「これでマルコの母乳を飲んだものは聖母の加護を受けられるようになりました」
そんなとんでもないことを言う駄女神がそこにいた。
僕はもう我慢できずに渾身の力で駄女神を殴り飛ばす。
「グフェラホゲ」
駄女神は僕のパンチを喰らって吹っ飛んでいった。
そして、壁に激突。
丁度そこにあった棚の中のものが落下し、生き埋めになっている。
うん。ざまーみろだ。
インパクトの瞬間に拳を捩じり込むように放ったのが良かったのだろうか?
マルコは今のモーションを忘れないように素振りをしてみる。
それにしてもなかなかの威力だった。
単にレベルアップして身体能力が強化されただけなのだろうが、今までひ弱キャラだった僕としては非常に嬉しい。
ただ、僕以外の面々は女神様が殴られて飛んでいくシュール場面を目撃して目を点にしていた。
「マルコ、いくらこんなのでも神様だぞ。バチが当たったらどうするんだよ」
いち早く我に返ったジークが困惑気味にそう言う。
だが、そんな物知ったことではない。
既にバチ以上の罰ゲームを受けているのだからこれくらいは当然の報いだとさえ思っている。
そんな中、アクアが瓦礫の中から這いずり出てきた。
そこにタイミング良く、残っていた最後の小鍋が落ちてくる。
カーンと小気味いい音が響いて、また崩れ落ちそうになるがアクアは何とか踏ん張っていた。
頭に直撃した小鍋が余程効いたのか若干涙目になっている。
実にいい気味だ。
そんなことを僕が思っていると、アクアが何事もなかったかのように話を続けた。
「さあ、マルコ。早速ですが、スキルが上手く発動するか確かめてください。そこにいるホワイトタイガーの子は既にあなたを慕っています。試しに加護を授けてみなさい」
「そんな頭にこぶを作ってほこりまみれになっている人に言われてもねぇ」
僕が蔑むような目を向けると、アクアは軽く頬を染める。
だが、それで折れるような女神ではない。
鋼のような精神力で僕の意見をスルー。
それどころか早くしろと急かしてくる。
周りも興味津々と言った感じでこちらに注目していた。
うん。なんだか後に引ける雰囲気ではない。
でも
「そんなこと、みんなの前で出来る訳ないじゃないか!」
顔を真っ赤にして声を荒立てる、僕。
そんな僕を諭すようにアクアは優しく語り掛けてきた。
「授乳行為は神聖な行為です。邪な目で見る者などいませんよ」
「そうだぞ、マルコ。赤子に親が乳を与えるのは当然のことだ。別に恥ずかしがることではない」
「そうよね。子育てだもん。恥ずかしがる方がおかしいわよ」
「うむ。授乳する母親は神々しく、淫らなものではない」
「そうですね。さあ、早く脱いで脱いで」
ジークの目がいやらしい。
リーナも顔を赤くしてるし、隠しているけどライルも目が泳いでいる。
それに村長。
あんた、ただのエロ親父になってるぞ。
僕がジト目で順番にみんなを見るとみんながみんな目を逸らしていた。
だが
「マルコ、その子に加護を与えないのですか? その子が寂しがってますよ?」
「にゃあ」
悲し気に小首を傾げて鳴く、ホワイトタイガーの子供。
その姿を見て罪悪感が湧いてしまう。
ファイアバードの雛には加護を与えたのに僕にはくれないの?
とその眼で訴えていた。
その眼は卑怯だ。
僕の母性本能がくすぐられる。
って、僕は男だから母性本能なんてないよ!
なんて心の中でツッコンでみるものの
胸にわだかまるモヤモヤは拭えない。
どうにかこの子の願いを聞いてあげたくなる。
だけど……
母乳はないよね!
なんで男の僕が母乳を上げないといけないの!
って言うか
「出産もしてないのに母乳が出る訳ないでしょ! そもそも僕は男だよ。男から母乳なんて出る訳ないじゃないか!」
怒りに任せて叫ぶ、僕。
しかし、それに応えたのは慈愛に富んだ女神らしい笑みを浮かべたアクアだった。
「心配いりませんよ。ちゃんとスキルを与えるときに肉体を改造して母乳が出るようにしています。存分にやってください」
うん。すっげー無駄な笑顔。スゴイムカつく。
「てめー。余計なことしてんじゃねえよ!!!」
僕は怒りに任せてもう一度渾身の右ストレートを放った。
「グゲラホゲ」
アクアは錐揉みしながらまた飛んでいく。
壁に激突し、地面に突っ伏す。
その後、お約束のように鍋が落ちてきて頭に直撃。
カーンと小気味の良い金属音があたりに響く。
どうやらこの女神はお約束を必ず引くように出来ているらしい。
水の女神じゃなくてお笑いの女神に改名した方が良い気がする。
僕は盛大に溜息を吐いてそんなことを考えていた。
だが、そんな現実逃避はいつまでも続かなかった。
いつの間にか復活していたアクアが背後に立っている。
そして、あるものを手にして振りかぶり
「その杖は!」
僕は咄嗟に回避しようとするも時すでに遅し、頭にその杖がクリーンヒットしていた。
そして、実にいい笑顔をしたアクアが一言。
「折角の授乳シーンなんだから女の子にならないとね」
可愛くウィンクするアクアを見て疲れ切って殴る気も失せてしまう。
そして、項垂れる、僕は
「グフェラホゲ!」
しっかりとアクアを殴っておいた。
いつもお読みいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




