第三話 間違いですよね?
しばらくすると、女神は何度か頭を振ってから話を続ける。
「怖いからと言って神であるわたしにそんな嘘を吐く必要はありません」
「本当に男なんです」
言い張る僕に困惑気味の女神様は隣にいた司祭様に視線を向けた。
司祭様は畏れ多いと顔を伏せながらも女神に返答する。
「恐れながらマルコは男です」
「こんなに可愛いのに?」
信じられないと女神は目を見開きもう一度問いただす。
そんな女神に司祭様は本当に残念そうに
「はい。非常に残念なことにマルコは男の子なのです」
「神を謀るのは重罪ですよ」
「何なら確かめてみますか?」
「それは……非常に魅力的な提案ですね。汝、マルコ。そこで脱いであなたが男であることを証明しなさい」
「え? そんな」
マルコが動揺していると司祭様が助け舟を出してくれた。
「それはなりません、女神様。貴方は神ですが女性です。女性の前で自分の息子を曝け出せというのはあまりにもマルコが不憫です。ここは男同士であるわたしが確認をとってきます」
司祭様がジュルリと喉を鳴らしたのはきっと気のせいだろう。
それより、問題は僕が男だと証明するのにあそこを司祭様に見せないといけないということだ。
僕には男の人に自分の愚息を見せる趣味なんてない。
だから
「見ればわかるじゃないですか! 僕は男ですよ」
「「いやいやいや。女の子にしか見えませんよ」」
二人に声を合わせてツッコまれてしまった。
僕はショックで頭を抱える。
確かに女顔なのは自分でも認めるけど、司祭様どころか女神様にまで言われるとは思わなかった。
僕がうずくまっている間にも話は続いている。
「司祭よ。わたしはマルコが女の子だと思っているのですよ。彼女の裸身を男の人の前に晒せなど、そんな無慈悲な命令は下せません。わたしが確認しますのでそなたは外に出ていてください」
しかし、司祭様は引き下がらなかった。
「それはズル――いや、それはなりません。マルコは男なのです。遠慮すべきは女性であるアクア様です」
「何を言ってるのですか。そなたからは邪な波動を感じます。何か、よからぬことを考えているのではないですか?」
「神の僕たるわたしを信じられないのですか? ああ、嘆かわしい。毎日のわたしの祈りが届いてないとは」
大げさに嘆いて見せる司祭様。
そうして、何度かやり取りが繰り返され、にらみ合いが始まった時にジークがやって来た。
「ならオレが確認します。オレ達は幼馴染みで小さい頃から何度もお風呂にも入った仲ですから」
「「なんと羨ましい」」
二人が驚愕の顔でジークを見ている。
そして、ジークは優しく僕の肩に手を置いた。
「じゃあ、マルコ。女神様や司祭様の要望なんだ。ちょっとズボンを下ろしてくれるかい」
何とも間抜けなセリフをイケメンヅラで言ってきた。
思わずズボンに手をかけた僕だったが
「いやいやいや。根本から間違ってるって! 名前がマルコの時点で男じゃん! それに僕は男の格好をしてるよね。ああ、そうだ。戸籍を調べて貰えばわかるよ。教会には戸籍台帳があるでしょ!」
ジークと司祭様がチッと舌打ちしていた。
僕は一生懸命話していたのでそれに気付いていない。
だが。
「マルコよ。わたしはそなたのいう事を信じていないわけではない。だが、これは重要なことなのです。この目で確認せねば他の神々にも説明が出来ません」
そう言って目を爛々とさせている女神様。
なんだか怖い。
そして、司祭様が身を乗り出す。
「ではわたしが確認します」
「いえ、オレが」
ジークがマルコを守るように司祭様との間に割って入る。
その隙をついて女神様が僕のズボンに手をかけた。
「だから、わたしが確認しないと意味がないと言っているでしょう」
僕は懸命にズボンを脱がされないように頑張る。
その間に二人が女神様を抑えてくれた。
今度は三つ巴のにらみ合いが続く。
そして、ジークが大きな溜め息を吐いた。
「仕方ありませんね。ここはみんなで確認することにしましょう。これで遺恨はないでしょう?」
「なっ、ジーク。僕を売るの?」
「そんな目で見ないでくれよ。これは世界の破滅に関わる重大事なんだ。女神様の要望を無碍には出来ないだろう。だから、ごめんよ。マルコ」
「やめてえええええええ」
僕の悲鳴が教会に木霊していた。
しばらくして
「ゴホン。確かにマルコは男の子のようですね」
「だから言ったではないですか。でも、御馳走さまです」
「マルコ。男らしくないぞ。裸の一つや二つ、男なら見られても何ともない物だぞ。なんだったらここでオレも脱ごうか?」
ジークがズボンに手をかけたのでマルコはジト目で睨み付けて
「男の裸なんて見たくない。この変態!」
罵ってやった。
ジークはその場で蹲ってプルプルと震えている。
ちょっと言い過ぎたかなと僕は反省するが、顔を振ってその考えを吹き飛ばした。
ジークにはこれくらい言って当然なんだ。
いつもいつも僕をからかって、ちょっとは反省してもらわないと。
そう思って僕は女神様たちに向き直る。
「これで僕が男の子だって証明できましたか」
「そうですね。あなたは立派な男の子です」
ポッと頬を赤らめて女神様は恥ずかしそうにそう言ってくれた。
そんな態度をとられたら、裸を見られたことを思い出してこっちも恥ずかしくなってくるじゃないか。
僕がそんな風に居心地の悪い思いをしていると、しばらく考え込んでいた女神様が顔を上げた。
そして、ゴホンと咳払いをすると
「少し確認をとってきます。しばらくお待ちください」
どうやら女神様だけでは判断がつかない事態のようだ。
女神様はそう言い残して帰って行った。
「えっと、どうしたらいいのでしょうか?」
残されたマルコは司祭様に尋ねると彼は苦笑しながら答えてくれた。
「待つしかないでしょうね」と
この間、洗礼待ちの人や騒ぎを聞きつけた人達が教会の入り口に集まりだしていてちょっとした騒ぎになっていた。
だが、僕にはそんなことを気にする余裕は全くなかった。
ちなみにジークはまだ顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
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